全員で不満ぶちまけ業績回復 部下立て直すリーダー力
ジョンソン・エンド・ジョンソン ビジョンケア カンパニー代表取締役プレジデント 海老原育子氏(上)
業績低迷期にはチームの気持ちがバラバラ
ジョンソン・エンド・ジョンソンに転職してから、踊り場にあった事業を再び成長軌道に乗せる際に使った方法論も、米スリーエム時代の方法論と全く同じだ。まずは不満やいらだちを吐き出させ、そこからあるべき姿を導き出した。業務効率を改善しながら、同時並行で中長期の戦略を練るグループを走らせ、変革した。
「売り上げが落ちているときというのは、個々人は頑張っているのに、チーム全体としてはバラバラで、共通の目標に向かっていかないことが多いものです。あるべき姿を明確にし、プロセス改善を通じて人と人をつなげてくことによって、成果が出やすくなります。早期に成果が出ると、社員が自信を取り戻せて、事業全体もうまく成長軌道に乗せることができます」
日本へ帰国しようと思ったきっかけの一つは、東日本大震災だという。それまでの経験を生かし、日本に対して何か貢献できないかと考えた。
「日本に戻る前の約2年間、米スリーエムで、あるビジネスを世界約60ヵ国で一斉展開する事業の責任者をしていました。その時に痛切に感じたのは、日本人はせっかくいいものを持っているのに、その口下手ぶりで大きく損をしているということです。他国の担当者は些細なことでも、『これだけ投資をしてくれたらもっとすごいことができます』と自信満々でアピールするのに対し、日本人は『いやいや、私はそんなことはできません』と謙遜をしがち。グローバルで比較した場合、押し出しが弱いために日本が損をしていることがとても気になっていました。このことも、日本へ戻り、世界レベルでモノを申し、形にしていけるリーダーをたくさん育てたいと思った理由です」

まずは不満を吐き出させるのが海老原さんの流儀という
海老原氏が率いるジョンソン・エンド・ジョンソン ビジョンケアカンパニーは三つある社内カンパニーの一つで、300人弱の社員が在籍している。
「事業領域としては使い捨てコンタクトレンズの輸入・販売が主でしたが、私が入社した頃はすでに踊り場を迎えていました。そこでビジネスモデルを転換。現在は事業領域を拡大し、トータルな目の健康に対して貢献できるよう取り組んでいるところです」
モノが見えなくなるということは、クオリティー・オブ・ライフに重大な影響を及ぼす。病気になってから治療するよりも、できることなら病気にならないようにすることが望ましい。また、万が一、病気になったとしても早期に発見して進行を止めるようなことができないか、諮問委員会を作るなどして検討している。
「外資系企業の場合、製品開発は本社で担い、現地法人はそれをいかにして販売するかの段階からというケースが多いです。しかし、目の前にある市場を観察し、こんなものがあったらいいと思えば、それを本社などに伝えて作らせることもできます。仮に市場環境が悪くなっても、その悪くなった環境をどうすればポジティブなところまで持っていけるかを考えられて初めてビジネスリーダーといえます。どんな環境だろうがきっちりと責務を果たせるリーダーを、できるだけ多く育成することにも、今、力を入れています」
(ライター 曲沼美恵)