リクルートは世界で成功するか ハーバードの視点
ハーバードビジネススクール教授 サンドラ・サッチャー氏(下)
「自律性の尊重」と「ナレッジや文化の共有」のバランスをとることはとても難しい問題です。
「ナレッジや文化の共有」を強制してしまうと、買収した企業にとってはマイナスとなりますが、うまく共有すればプラスになる。私は「自律性の尊重」も大切ですが、リクルートはもう少し、自らのナレッジを買収した企業に積極的に提供する仕組みをつくってもよいのではと感じています。お互いに学び合う仕組みがあれば、それぞれの会社の強みが生かされ、グループ企業としての力が強まります。
佐藤 日本のサービス関連企業が海外に進出する際、障壁となるのが言語の違いです。家電製品や自動車とは違って、サービスを売るのは難しいといわれています。

サッチャーそれはとても大きな障壁となります。リクルートの担当者に「本社の社内言語を英語にするつもりはあるか」と聞いてみたことがありますが、「基本的には日本語を維持していく」とのことでした。
サービス業の中でもホテル業や飲食業は、人間と人間の直接的なコミュニケーションの比重が高いビジネスです。一方、リクルートの海外ビジネスはテクノロジーを通じて提供されるものが多いため、その分、言語の障壁は小さくなります。しかも海外では現地企業にまかせていますし、リクルートの社内にも要所要所に英語を話せる人がいますから、言語の違いはそれほど障壁になっていない印象です。
佐藤 リクルートという企業を分析してみて、どの部分が「日本的」で、どの部分が「国際的」だと感じましたか。
「学習する組織」は日本的
サッチャー リクルートが「学習する組織」である点は、とても日本的だと思いました。シカール・ゴーシュ教授がリクルートの教材を初めて教えたとき、ゲストスピーカーとしてリクルートの役員を招きましたが、その際も「改善点はないか」など熱心なフィードバックを求めてきました。
私はハーバードビジネススクールでこれまで多くの日本人学生を教えてきましたが、彼らは皆、物事について深く考える習慣があるためか、思考プロセスを説明するのがとてもうまいのです。日本人には多層的かつ独創的に考える特性がある、と感じています。この特性が多くの日本企業を学習する組織にする一助になっていると思います。
またリクルートは、日本のものづくりに由来する創造性も受け継いでいる会社だと思います。日本の土産物店には、お香、くし、藍染め製品、麦わらで編んだ籠、など伝統的な製品が並んでいますが、日本の製品からは、脈々と受け継がれてきた創造性を感じます。そこには品質だけではなく、ものづくりの本質を追究する精神があります。同じような創造性をリクルートからも感じます。
一方、リボンモデルに代表されるリクルートのビジネスモデルの根底にある思想は「普遍的」だと思います。リクルートは企業や事業者(クライアント)と消費者(カスタマー)の結び目として、双方にとってメリットのあるサービスを提供することを目的としています。リクルートに直接売り上げをもたらす広告主だけではなく、その広告主の製品をつかう消費者のことまで考えます。
ビジネスの究極的な目的は世界をよりよくすることであり、企業はそのための製品やサービスを提供すべきだ、という考え方は、日本だけではなく、他国の企業にも通じるものです。リクルートは、どの国においても、人々のニーズを満たすことを目的としたサービスをつくり、提供しています。この普遍的な精神がリクルートやグループ企業の信頼を獲得することにつながっていると思います。
(上)「夢の実現装置」 ハーバードも驚くリクルートの強み
■社員の起業促せる不思議 ハーバードが見たリクルート
■常識超えに潜むリクルートのリスク ハーバードの視点
ハーバードビジネススクール教授。専門はゼネラル・マネジメント。特に「企業はいかに信用を構築し、失墜し、回復するか」をテーマに研究。MBAプログラムにて「リーダーシップと企業倫理」「モラル・リーダー」、エグゼクティブプログラムにて「テクノロジーとオペレーションマネジメント」等の講座を教える。大手デパート、フィデリティ・インベストメンツなどで25年間にわたって要職を務めた後、現職。著書に"Teaching The Moral Leader A Literature-based Leadership Course: A Guide for Instructors" (Routledge), "The Moral Leader: Challenges, Tools, and Insights" (Routledge)。