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「倫理感」は、さきほどの「自己認識」とも密接に関係している概念だ。

「国際人というのは『多様性の受容』だと私は解釈しています。本校では、『グローバル人材』を『ふつうのひと』と解釈します。だって、何らかの特徴をもっているから、たとえば『日本人』という呼び方をされるわけですよね。国際人とは、それぞれの特徴や多様な価値観をもったひとたちを認め合えるひとだという意味です。パラリンピックがいい例です。かつて障害だと思われていたことがいまは特徴として認められていますよね。ユネスコ(国連教育科学文化機関)の理念も同じだと思います」

多様性の受容は子どもたちにとっても難しい課題だが、そこに帰国生の存在が大きな役割を果たしてくれているという。

卒業生の田中マルクス闘莉王さんのサインボール

卒業生の田中マルクス闘莉王さんのサインボール

「学力が高い生徒集団のなかでは勉強で優劣をつけようという発想に陥りがちです。でも、勉強ができる/できないというのは一つの特徴でしかないでしょう。帰国生が英語を得意にするのも、主張が強いのも、特徴です。ひとは、特に若いひとたちは、自分と違うものを排除しがちですが、学校の中で違いを認め合う経験ができることには大きな意味があります。違いを認め合う文化があるから、もっとひとと違った特徴を身につけようとも思える。若者は、"身の程"なんて考えず、どんどんとがった存在になることを目指していいと思います」

この3つの教育目標を生徒の細胞に染み込ませてきたのが、校長が創立以来続ける「校長講話」である。式典や朝礼での訓話のようなものではなく、6年間のシラバスが綿密に設計されている教養講座的な授業。6年間必修で、校長自ら教壇に立つ。古今東西の哲学、思想、文学を縦横無尽に参照し、現代に生きる知恵として生徒に授ける。校長講話が渋幕の学校文化の礎になっていることは間違いない。

「『自調自考』『倫理感』『国際人』の3つのキーワードを、卒業生や生徒たちがそれぞれの立場でそれぞれに考えてそれぞれに解釈をしてそれぞれに体現していってくれている感じがします。目標設定の当初から、校長はあえてそういう余白を残したのだろうと思います」

余白があればこそ変化していくのは言葉も人間も学校も同じであろう。そして、本質を保ちながら少しずつ変化しているのは、それらが生きている証拠である。

渋谷教育学園幕張中学校・高等学校(千葉市)
創立は1983年と新しいが、飛ぶ鳥を落とす勢いで進学実績を伸ばし「渋幕の奇跡」と呼ばれる。高校からの入学枠もあり、高校の1学年は約350人。2019年の東大合格者数は72人。東大・京大・国公立大学医学部合格者数の直近5年間(2015~19年)平均は108.6人で全国11位。海外大学合格者数の多さも有名。卒業生には、俳優の田中圭氏やアナウンサーの水卜麻美氏、サッカー選手の田中マルクス闘莉王氏、落語家の立川志の春氏などがいる。

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新・男子校という選択 (日経プレミア)

著者 : おおたとしまさ
出版 : 日本経済新聞出版社
価格 : 935円 (税込み)

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