色眼鏡捨て多様性を強みに 任せて社長超える力を期待
日本IBM社長 山口明夫氏(上)
「IBMは多様性豊かな企業です。ビジネス上の判断をするときには世界中の仲間に参加してもらいます。日本人だけを評価することは絶対できない仕組みですし、色眼鏡をかけて人を見なくなる。『彼は米国入社だ』とか、『日本での中途採用組だ』といったバイアス(偏った見方)を全部捨てなくてはいけない。これはIBMで仕事をする中で、学んできたことです」
――そうした思いを強めたきっかけはありますか。
「ソフトウエアを販売する技術者部隊のリーダーを務めていた2004年のことです。米国本社の責任者はローレン・ステイツさんという女性でした。あるとき、彼女が『新しいスキルを部下全員に習得させなさい』といってきたのです。私は『顧客に役立つ技術の方が大事だ』と反発して、指示を後回しにしたのです。ところが他の国・地域はちゃんと従っていて、日本は最下位でした。彼女がすごく怒っているという話が米国から聞こえてきて、私はふてくされていました」
「05年に米国本社で仕事をすることになったのですが、赴任直前に日本の上司から『君の上司はステイツさんだ』と告げられ、絶句しました」
互いに置かれた状況や背景を理解する
「本当に嫌でしたが、仕方ありません。まずはわだかまりを解こうと英語で3ページの資料を作成して、『当時、自分はこう思っていた』と詳しく書きました。ところが、彼女は一読すると全て破いてゴミ箱に捨ててしまったのです。『こんなのはいらない』って。一瞬肝を冷やしましたが、それが彼女のスタイルだったんですね。自分で納得したら、全部捨てる。引きずらない」
「彼女も『互いに置かれた状況や背景を理解しようとしないといけない』といってくれて、握手してその件は終わり。一緒に仕事をしたのは10カ月だけですが、欧州にもアジアにも南米にも、全ての出張に同行させてくれました。『アキオはもっと見識を広げたほうがいい』というのです。世界中の顧客、世界中のIBM社員と触れ合い、彼女がどんな準備をして、何の話をするのか――それはもう勉強になりました。ステイツさんは現在、米ハーバード大学で教壇に立っています。今でもニューヨークへ出張すると、彼女の旦那さんと3人で食事をしたりしています」

米国での上司だったローレン・ステイツさんとは今も会う仲だ(右が山口氏=2005年11月)
――社員とはどのようにコミュニケーションをはかっていますか。
「社長になってから、私が何を考えているのか、何をやっているのかを毎日、社員向けにビジネス対話アプリに書いています。社員にしてみれば、『社長は何をしているのか』『どういう人間なのか』と分かったほうが仕事をしやすいと思うからです」