変わりたい組織と、成長したいビジネスパーソンをガイドする

「社員には社長の素の姿を見せることが大切だと思います。格好よく見せても仕方ありませんし、ボロも出ますから。社員にも顧客にも、正直で誠実でありたいのです。日本IBMは数万人の社員がいますから、全てを私が考えて、『こうしよう』といったところでダメなのです。私より経験豊富で聡明(そうめい)な人がたくさんいますから、皆が持てる能力を発揮できる環境を整えることが私の仕事だと思っています」

――役員とはどう接していますか。

「役員については、それぞれの事業部門の責任者としてリスペクトし、任せています。社長が一つ一つ指示していたら、会社として社長の能力以上のことができなくなります。逆に、全員で大きなビジョンや方向性を共有できれば、すごいアイデアが出てくるかもしれません。ただ、関与するのか任せるのか、このバランスが難しいですね。若いころ、上司に対して『箸の上げ下ろしにまで口を出されたらかなわない』と感じたので、そうしないよう気をつけています。我慢するのはしんどいですけどね」

健康法を聞くと「よく寝ることです。接待があっても午後9時半には帰ります」。スポーツはゴルフとテニスが好き。「今も会社のテニス部長をやっています。社員の結婚式に参加したら、出席者リストの私の肩書はテニス部の部長でした」

健康法を聞くと「よく寝ることです。接待があっても午後9時半には帰ります」。スポーツはゴルフとテニスが好き。「今も会社のテニス部長をやっています。社員の結婚式に参加したら、出席者リストの私の肩書はテニス部の部長でした」

――リーダーに求められる最大の役割とは何だと考えますか。

「2000年代後半、IBMは管理会計の原則を大きく変えようとしていました。コストを徹底的に削減して最大利益を追求し、株価を上げて株主に貢献する――という目標を掲げたのです。当時、私は日本で執行役員を務めていましたが、『顧客を向いた仕事ができていない。しかし変革は進めなければ』と悶々(もんもん)としていました」

変えてはいけないものと、変えるべきことがある

「だからこそ、『変えてはいけないものと、変えるべきことがある。リーダーはそれを判断することが必要なのだ』と分かりました。『変えてはいけないこと』とは、『顧客を向いて仕事をする』『社員の気持ちを考える』ということ。『変えるべきこと』とは、時代や市場の変化に合わせて仕事のやり方やツールを変革していくということです」

「日本IBMに必要なのは、社長だけでなく、役員や現場のリーダーがそれぞれの立場で、自分の意思で正しいことを判断できる――ということなのです。『顧客にこういわれた』『米国本社にこう言われた』というのは言い訳です。それぞれの部門のリーダーがこういう認識を持てれば、会社全体をさらに強くできるはずです。米国本社などグローバルに対しても、正しいことを論理的に訴えていかなければダメだと思っています」

(下)仕事に厳しく人に優しく 顧客に学んだ働くということ >>

山口明夫
1964年和歌山県生まれ。87年大阪工業大工卒、日本IBM入社。システム開発・保守や社長室・経営企画、テクニカルセールス本部長、米国IBM役員補佐などを経て2009年執行役員、17年取締役専務執行役員、米国IBM本社経営執行委員、19年5月から現職。

(笠原昌人)

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