顧客の苦情が身に染みた リーダーに求められる誠実さ
島津製作所社長 上田輝久氏(上)

島津製作所社長 上田輝久氏
2020年3月で創業145周年を迎える精密機器大手、島津製作所。02年にノーベル化学賞を受賞した田中耕一氏が在籍する日本を代表する「研究開発型」企業だ。アジア最大手の分析機器事業がけん引し、7期連続の増収増益を視野に入れる。同社の指揮を執る上田輝久社長はリーダーの原点としてクレーム対応で顧客と向き合った経験をあげる。
(下)膝つき合わせて語れ トップの仕事は切り込み役にあり >>
――リーダーに求められる条件をどう考えますか。
「シンプルに、リーダーは誠実でなければいけません。もちろん、うまくいかないときもあります。でも、そうでなければ人はついてこないのです。『この人は信用できない』と思われたら終わりです。誠実さを心がけるのは難しいですね。とにかく、職位や国籍、社内外を問わず、いろいろな人とコミュニケーションをとり、相談にものります。相談は結構あります。社員から直接メールが送られてくるので、自分で返信しています。先日は若手が『社長の考えを知りたい』というので、懇談会を催しました。向こうから声をかけるハードルが高いときは自分から率先して声をかけます」
――トップとしての「誠実さ」を意識した原点となる経験はどのようなものですか。
「開発の責任者だった課長、部長時代のことです。印象深かったのは顧客からのクレームに対応し、客先に謝りに行ったことです。顧客と直接向き合った経験から、多くのことを学びました」
「基本は品質管理部門がクレーム対応を担当するのですが、原因がよくわからない現象が起きると私たち、開発部門に話が回ってきます。例えば、1998年ごろに主力の分析計である『液体クロマトグラフ』のプロダクトマネジャーとして米国に2~3カ月滞在したときのことです。米製薬大手に納めた15システムのうち、1~2台が突然止まるトラブルが発生しました。先方は『全部持って帰れ』と大変なけんまくでした」
とにかく現場に
「そんなときは誰も顧客のところへ行こうとしません。対策会議と称して部屋にこもり、現地スタッフが右往左往していました。『そんなことでは、何の解決にもならない。現場に行こう』と私が言い出し、実際に客先に赴いて15システム全てを3日間かけて点検しました」
――損な役回りだとは思いませんでしたか。
「そのときは、そんな余裕はありませんでした。ただ、『どうやったら解決できるのか』ということで、頭がいっぱいでした。結果的には先方から『ここまでちゃんとやってくれるとは思わなかった』と言ってもらえました。それ以降、その会社からの注文がかなり増えました。常に仕事の前提は『誠実さ』にありました。こうした経験を国内外でいくつも重ねてきたので、今でも『百戦錬磨』という自負がありますね」
――1875年創業という島津ならではの社風の影響もありますか。
「当社の歴史を振り返ると、創業者の初代島津源蔵や2代目源蔵も『逃げない人』だったのではないでしょうか。頼まれたら『何でも作ります』と請け負っていたのでしょう。教育用の理化学機器の製作に始まり、日本初の有人軽気球を飛ばしたり、蓄電池の製造、日本初の医療用X線装置の開発を手がけるなどしていました」