スマホもパソコンも禁止 名門ラ・サールの「寮生活」
ラ・サール高校・中学(上) 教育ジャーナリスト・おおたとしまさ
いまの時代、親離れ・子離れできない親子が多くて困っていると、さまざまな学校で教員たちが嘆く。その点、確実に親離れ・子離れできることが、寮生活のいいところである。「勉強しなさい」と四六時中親から言われるより、「義務自習」で友達とそろって机に向かうほうが、実際はストレスも少ないかもしれない。

高校生用の個室は4畳くらいの広さ
「寮生活のなかで、好きな時間は夕食を終えてから義務自習までの時間です。やっぱり時間に追われるところが嫌ですね。自由な時間が少ない。週末は多少自由な時間がありますが、場所が微妙で……。まわりに中高生が遊べる場所なんてないですからね。結局部屋で漫画を読んでいるか、みんなでサッカーをしているか……。スマホやゲーム機はダメですが、漫画と音楽プレーヤーはOKです」
夕食後の中学生の大部屋では、ボードゲーム大会が行われていた。
「学校と寮だけの生活は閉鎖的ですよね。たまに鹿児島中央駅なんかにいくと、いちゃついている高校生のカップルなんかを見かけて『いいなぁ』なんて思っちゃいます。中3のころはそれでだいぶ悩みました。このままではイメージしていた普通の高校生活ができないと感じて……」
LINEもEメールも使えないが…

昼食は決まった席で、夕食は自由な席で
そもそも他校生との接点も少ないが、仮にどこかで友達ができても連絡手段は公衆電話か手紙しかない。Eメールを使おうにも、学校のPCルームのパソコンを使用するしかない。常時スマホで友達とつながっている、現在の一般的な中高生からは想像しがたい環境だろう。
ときどき館内放送で「○年の○○くん、2番に電話です」などというアナウンスがある。最寄りの内線電話で電話を受けることができる。ちょうどそんなアナウンスがあったとき、近くにいた生徒に「これってもしかしてカノジョからの電話だったりするの?」と聞いた。中学生とおぼしき生徒は「いや、ラ・サール生でそういうことはあり得ません……」と苦笑い。からかって悪かった。

中学生の大部屋での限られた収納スペースの中身(一部加工しています)
夕食時の食堂では、多くの生徒たちが近隣のスーパーのビニール袋を携えていた。中を見せてもらうと大量のスナック菓子にカップラーメン。しかもデカ盛り。義務自習の休憩時間に食べるのだそうだ。ちなみに寮の食堂で出される料理のレシピは2012年に『秀才男子を育てる!ラ・サール学園「寮めしレシピ」』(集英社)という書籍になっており、全国で売れた。
寮の中をぶらぶらしていると、各フロアの廊下や階段に必ずといっていいほど、下着の落とし物がある。なぜか決まって下着である。洗濯物は寮職員がまとめて行う。寮生の衣服にはすべて番号が振られており、洗濯されたものは番号ごとにロッカーに戻されるしくみだ。
寮の事務室前には頻繁に生徒がやってくる。観察していると、どうやらお金をもらっている。所定の用紙に書いて申告すると保護者から預かっているお金を引き出せるしくみらしい。

高校生の個室の前の廊下
4000円も引き出している高校生がいた。「結構大金じゃん! 何に使うの?」と訪ねると、「あさって焼き肉会があるので、そのためのお金も必要で」とのこと。私が寮を訪れたのは、2学期の期末試験が終わって、名物行事の「桜島一周遠行」が行われる前日だった。2学期最後の試練を越えてから、みんなでパーッと焼き肉を食べに行こうという趣旨である。なんともほほ笑ましいではないか。
多くの卒業生が振り返る。「なんだかんだいって、いま振り返ると寮での生活が最高に楽しかった」。好き嫌いはあるだろうが、中高生がこんな青春を送れる環境は、いまどきなかなかない。
(中)論破はゴールじゃない ラ・サール英語ディベート部 >>
創立は1950年。中学の1学年定員は約160人、高校は内部進学生を含めて約240人。学校に寮が併設されているので全国から生徒が集まる。生徒の約半数は寮暮らし。2019年の東大合格者数は34人。東大・京大・国公立大学医学部合格者数の5年間(2015~19年)平均は120人で全国10位。同じく国公立大医学部合格者数では全国4位。卒業生には野村ホールディングス元会長の古賀信行氏やりそなホールディングス会長の東和浩氏、NHK前会長の上田良一氏ほか、著名な政治家や官僚も多い。