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資金集めが難航 日本企業との出会いで打開

悩んだ末、米ワシントン州シアトルで2002年、会社を登記した。資本金は日本円換算で100万円。自宅の地下室に電話兼ファクスを引き、パソコンを持ち込んで「会社」とした。

創業した「アキュセラ」という会社名は、視力を意味する「アキュ」と、細胞を意味する「セル」から取った。「細胞レベルの治療で視力を改善する」という願いを込めた。

創業時は自宅の地下室に「本社」を構えた

創業時は自宅の地下室に「本社」を構えた

起業した当初に考えていたビジネスモデルは、細胞の集合体「アッセイ」を作ることだった。アッセイはストレスを与えて病気の状態にした細胞の集合体。新薬の可能性を持つ化合物をふりかけて、改善するかの反応を調べる「ハイコンテンツ・スクリーニング」と呼ぶ技術で使う。様々な病気の状態となった細胞の集合体を多数そろえて、製薬会社の代わりに新薬候補の化合物を調査するというビジネスに可能性を感じた。

このビジネスを本格的に立ち上げるにはかなりの資金が必要だが、当初は調達に困難を極めた。それまでは眼科医、研究者であって、ビジネス経験はない。自社の研究をはじめ、営業、経理、広報などを、全部ひとりでこなさざるを得なかった。

転機となったのは、あちこちのツテをたどって会った日本企業、オリンパスの幹部との雑談だったという。内視鏡のトップメーカーであるオリンパスは、細胞研究に欠かせない顕微鏡でも世界的に地位を固めている。起業した新会社の説明後に窪田氏が「オリンパスの顕微鏡を使うと、細胞を染色した蛍光色素がよく見えるので重宝していました」と話したことがきっかけとなり、最初の資金(シードマネー)を投じてもらえることになった。

新型コロナウイルス感染症治療の効果が期待されている新型インフルエンザ治療薬「アビガン」の開発で知られる富山化学工業(現・富士フイルム富山化学)もアキュセラの顧客になった。既存薬を眼疾患にも使えるかどうかについて共同研究する狙いだったという。徐々に追い風が吹き始めた。

「緑内障の原因遺伝子を世界で初めて発見したという、慶応大学での成果も助けになりました。日本人が米国で起業したバイオベンチャーとしてメディアに取り上げてもらったこともプラスに働きました。起業のネタ自体が偶然の発見でしたから、本当に運がよかったと思います。ただ、当初のビジネスモデルは鳴かず飛ばずで、3年で行き詰まってしまいました」

アッセイを使って疾患モデルを作ることは何とか実現できたが、その疾患モデルを使った新薬候補の発見方法が他の方法よりも有効かどうかを証明するのに時間がかかった。アッセイを使って新薬となる化合物を試し、その結果が悪くても、アッセイが悪いのか、化合物が悪いのかの判定がつかない問題もあった。

最終的には自分たちで新薬候補となる化合物を見つける創薬ベンチャーを目指す方向に切り替えた。05年10月のことだった。それまでに資金は順調に集まっていたが、新薬開発となれば、2年程度で資金が底をつくことが分かっていた。

「わずか2年間での新薬開発がどれだけ難しいかは、製薬業界の人なら誰もが理解できると思います。しかし、それ以外に道はなかった。とにかく全速で突っ走るだけでした」

あまりにもリスクが大きいと感じて、一時は40人いた社員の半分が辞めていった。それでも窪田氏は「リスク耐性が強いせいか、怖いという感覚はなかった」と話す。

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