変わる社会を常にキャッチ 次世代リーダーの理想像
青山学院大学陸上競技部 原晋監督(下)
白紙に自力でデッサンできる学生に
――自身はリーダーとして、どのような努力を続けているのですか。
「リーダーは組織がうまく機能しているときこそ、学ばないといけないと思います。私は17年に早稲田大学大学院スポーツ科学研究科に入学して、それまでチームを強化してきた軌跡を分析しました。そこで学んだのはスポーツが発展するメカニズムです。『勝利』『普及』『資金』の3要素を循環させる『トリプルミッション』が重要だと気づいたのです。実は営業マン時代も同じようなことをやっていて、自分の指導の方向性の正しさを再確認しました。人間は立ち止まると退化します。繰り返しになりますが、社会は動いています。自分が立ち止まっていたら、問題が先々で必ず起こってきます。リーダーとしての能力を開発するためにも思考回路を柔軟にしておく。常に勉強です」

青学大陸上競技部を強豪に押し上げた手腕は各界から注目され、全国から講演の依頼が相次ぐ。「弱小軍団をどう育てたか。業種を問わず普遍的なものがあるのだと思う」と分析する。講演に参加した経営者らと酒を酌み交わすことも多く、最近は大学OBやベンチャー企業の社長と会食する機会が増えた。「同じ目線を持つ人と飲みながら語り合うことが好き。仕事のようで趣味でもある」と語り、他分野で活躍する人との交流が活力になっているようだ
――19年から青学大の教授として、一般学生にもリーダーシップ論を教えています。
「今の学生には、課題に対して何が問題かを見定め、それに対して自分なりの対策を練っていく力を養ってほしいと思っています。白紙のキャンバスに新しくデッサンするような思考の回路にしていきたいのです」
「授業は主にグループディスカッション形式で展開しています。例えば『スポーツとふるさと創生』というテーマを与えます。市町村の長だったら何を武器に町おこしをしていくのか。その土地ならではの課題や強みがあるはずなので、それらを整理して『トリプルミッション』をどう生み出していくかを議論させます。私が陸上部で実践してきたこと、学んできたことを伝えることで、社会に貢献できる人材を育てていきたいと考えています」
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1967年広島県生まれ。広島・世羅高、中京大を経て中国電力に陸上部1期生で入社。引退後は社業に専念し、2004年に青山学院大学陸上競技部監督に転身。09年に33年ぶりの箱根駅伝出場を果たし、これまで5度の優勝に導く。19年から地球社会共生学部の教授に就任。新型コロナウイルスの影響で5月からオンデマンド授業が始まるため「今は資料作りで頭がいっぱい」。監督業以外にもメディア出演など多彩な顔を持ち、多忙を極める。
(渡辺岳史)