新型コロナが問う リモートワークが生み出す「価値」
リモートワーク時代の働き方(上) &Co.,Ltd.代表取締役 横石崇氏
ビジネスコミュニケーションのチャネル

この図は私のビジネスコミュニケーションの様々なチャネルについて、同期性と対面性を軸に分類したものです。
ビフォアコロナの時代においては、左側のエリアにある対面型が中心で、舞台は「オフィスワーク」でした。しかし現在のようなウィズコロナの時代では、右側のエリアへと重心が変化して「リモートワーク」が舞台になっています。しかし、事態が収束してアフターコロナの時代になったとしても、以前と同じ左側に戻ることはありません。今後、私たちはこの4つのチャネルの再配分を進めることで、人と人が接触する機会を極力減らしながら、より生産性を高め、創造性をもって働くことが重要なスキルセットになっていきます。
今以上にコミュニケーションのチャネルマネジメントは欠かせなくなり、特に「同期・対面型」である打ち合わせはコストがかかるので「ぜいたく品」として扱われ、これまでのように「打ち合わせに行ってきまーす!」などと安易に外出することはできなくなるでしょう。そして究極的には、会社員は「人と会って働く者」と「人と会わずに働く者」に二分されていくのではないでしょうか。これからの時代における「同期・対面型コミュニケーション」は、経営コストとしても、当事者の気分としても、情報量としても、「重さ」を感じざるをえません。
私自身の話で言えば、今までは対面型コミュニケーションが7割で、非対面型コミュニケーションが3割でした。今後は、それを反転させて重心を変えていこうと思いますが、収束後にポイントとなるのは「同期・非対面型」のテレビ会議を増やせるかどうかでしょう。そのためにも、「同期・対面するほどの価値」とは何なのかを自分に問うた上で、ルールを課す必要があります。
例えば、私の場合はこのようなシンプルなルールです。
1)打ち合わせする相手にワクワク・ドキドキするか
2)相手に貢献できそうなことはあるか
3)一緒に食べたい物や行きたい場所があるか
こうして並べると、仕事をしているようには思えないかもしれませんが、雑談から事業やプロジェクトのコンセプトアイデアが浮かんだり、コラボレーションに至ったりする機会が多いため、テレビ会議やチャットでは達成できないこともあります。私にとって「その打ち合わせが売り上げにつながるかどうか?」は重要な指標ではありません。「気の合う人たちと一緒に未来を作れるかどうか?」が最大の関心事なのです。自分の場合はどんなルールがあるのか、一度考えてみてはいかがでしょうか。
価値を生み出すことにシフトする
新型コロナウイルスによる非常事態は、私たちの働き方に「大いなる反省」をもたらしてくれました。それは、仕事とは「会社に行くことではなく、価値を生み出すこと」に他ならないということです。そのことを今回の件で、多くの日本人が身をもって体験できたのではないでしょうか。
もちろん、リモートワークがすべてを解決してくれるとは思いませんが、思わぬ形で花開こうとしている「リモートワーク文化」を、今はまだ緊急事態だからと一時的なものにするのではなく、本質的なリモートワークの文化づくりを進めながらオフィスの再創造を行い、私たちのスタンダードを築いていく必要があると思います。リモートワークとオフィスの融合は、まだ始まったばかりです。
雪が降ろうが台風が来ようが、みんなで満員電車に揺られ、会社に行かなければならないことを、国民の気質や組織の文化だと半ば諦めていた人たちも少なくないでしょう。くどいようですが、仕事とは会社に行くことではないのですから、私たちは会社通勤と価値創造を一緒くたにしてはなりません。
既存のオフィス観や組織論にとらわれず、価値を生み出すことに集中する、それが実践できるかどうかが、今の私たちに問われていることなのではないでしょうか。
&Co.,Ltd.代表取締役・プロジェクトプロデューサー/Tokyo Work Design Weekオーガナイザー。1978年、大阪市生まれ。多摩美術大学卒。広告代理店、人材コンサルティング会社を経て、2016年に&Co., Ltd.を設立。ブランド開発や組織開発をはじめ、テレビ局、新聞社、出版社などとメディアサービスを手がけるプロジェクトプロデューサー。また、「六本木未来大学」アフタークラス講師を務めるなど、年間100以上の講演やワークショップを行う。毎年11月に開催している国内最大規模の働き方の祭典「Tokyo Work Design Week」は、3万人の動員に成功。法政大学キャリアデザイン学部兼任講師。鎌倉のコレクティブオフィス「北条SANCI」支配人。代官山ロータリークラブ会員。米国ビジネス誌「FAST COMPANY」をはじめ国内外でアワード受賞。著書に『これからの僕らの働き方』(早川書房)、『自己紹介2.0』(KADOKAWA)がある。