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――プライス夫妻がコレクション売却の仲介を山口さんに託した理由は聞きましたか?

実はいまだに分からないのですが、僕が以前、故ピーター・ドラッカー博士のコレクションのプライベートセールを手掛けた実績を知ってのことかもしれません。

――「経営の神様」といわれるドラッカーが熱心な日本美術のコレクターであったことを、山口さんの近著『美意識の値段』を読んで初めて知りました。

そうなんです。彼は室町時代から江戸時代の水墨画を中心とする日本絵画の収集家で、博士亡きあとはドリス夫人がコレクションを引き継ぎました。夫人の死後、僕が売却を仲介したある日本企業が博士のコレクションを取得し、千葉市美術館に寄託しました。

どんな作品も、作者はいつかこの世を去り、持ち主も亡くなります。それでも作品は残り、次の持ち主へと引き継がれていく。我々が目にする古美術品は、様々な時代と何人もの目利きの審美眼を経て、今ここにある。その意味で、美術品は存在自体がとても有機的なもの。そこにロマンを感じます。

――山口さんは著書で、美術品の価格を決定づける要素として「相場」「希少性」「状態」「来歴」の4つを挙げています。希少性や状態は想像できましたが、作品がどんな人の手を渡ってきたかの来歴が値付けに影響するとは意外でした。

例えば同じ茶しゃくでも、持っていたのが千利休か名もなき茶人かでは、価格が全く違ってきます。それに、作品の過去の所有者が確かな眼を持つコレクターや美術館であれば、その過去自体が価値の証明になる。来歴は美術品の鑑定や査定をするスペシャリストにとって非常に重要な要素です。

アートは人を介することなしには存在しないし、受け継がれてもいきません。人と人をつないで作品の価値を引き継いでいくのが、我々の仕事だと考えています。

――美術品は、その国の文化を伝える「最も優秀な文化外交官だ」という指摘も印象的でした。

日本美術の素晴らしさを世界に伝えるには、作品を見てもらうのが一番いい。日本の価値ある古美術品を海外に持って行く意味はそこにあると僕は考えています。

だからこそ、2008年に「伝運慶作 木造大日如来坐像」をクリスティーズNYのオークションに出品した時の日本からの批判は今でも鮮烈に覚えています。ある個人から依頼を受けて出品準備をしていたところ、全国紙の一面で「運慶 米で競売へ 文化財未指定 海外流出の恐れ」という見出しで報じられ、売却反対運動まで起こった。担当していた僕は極悪人のようにいわれました(苦笑)。

でも当時、運慶作品は国宝も重要文化財も国内に幾つもあった。一方海外には、快慶も他の慶派の作品もあるのに、運慶は一体もない。「東洋のミケランジェロ」といわれるほど素晴らしい運慶の作品を、海外の人は日本に来ないと見ることができない現状はどうなのか、と僕は考えていました。

結局この作品は、落札価格14億円という日本美術品のオークション史上最高価格で三越が落札。真の買い手だった宗教団体によって日本に戻され、重要文化財に指定されました。結果的には「全員ハッピー」な結果となり、私のオークション人生の中でも忘れられない思い出です。

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