自分も事実もすべて伝える コロナの不安、社長が払う
イケア・ジャパン ヘレン・フォン・ライス社長(上)
今こそ女性リーダーの力が求められている
――若手時代にリーダーのあり方を考えさせられた出来事はありますか。
「イケア商品の開発・デザインを担うグループ会社で、社長のアシスタントをやっていた時のことです。女性社長で、パワフルかつ戦略的なリーダーでした。彼女から、『まだ若手で経験が浅いだろうから伝えておく』と言われて、2つのことを教えてもらいました。1つは『早歩きをするな』です。廊下で早歩きをしていると、ストレスを抱えているのが皆に分かってしまうのです。これではトップの下で働くメンバーに悪影響を与えてしまいます。早く歩かないこと自体が重要なのではなく、業務にマイナスとなるような自分の感情を表に出さないよう、リーダーとして常に意識することが重要なのです。でも、これを聞いた後に上司がゆっくり歩いているのを見ると『あ、イライラしているな』と思いましたね」
「2つ目は『リーダーは好かれようとしないこと』でした。最初は驚きましたが、確かに皆が喜ぶ結果を出すのは不可能ですし、好かれようと思って下した決断は大体良い結果を生みません。彼女から『まず、好かれようとするのは忘れなさい』と言われた瞬間は今でも覚えています」

私生活でも海外旅行で文化や歴史を学んでいる。最近はガーデニングを始めたという。「東京だと庭がとても狭いけれど、野菜やハーブを育てています。仕事を忘れてリラックスできる瞬間です」
――北欧企業として、日本企業が変えるべき部分はどこだと感じますか。
「長時間勤務を称賛するような文化を変えることだと思います。企業として重要なのは、どう従業員の働きぶりを評価するかです。これまでの日本企業は労働時間で評価していました。これを働いた成果というアウトプットに置き換えるべきだと感じました。いかに短い時間で1つの仕事ができたか、という評価体系に切り替えることが望ましいと思います。それと、従来のやり方を引きずるといった、古い文化をやめることでしょうか。ペーパーレス化の遅れが最たる例です。イケアグループでは4月、請求書のデジタル化を全てのサプライヤーに通知しました。これは自社だけでなく、他社の従業員も含めて、無意味と感じるような労働から解放して、より創造的な仕事ができる環境につなげたいという狙いがあります」
――後継者はどのように育成しているのですか。
「インカグループとして、後継者育成プログラムをシステム化しています。毎年評価会を開き、どの国にどんな才能を持った従業員がいて、次の役職までどれくらいで到達するかをリスト化して管理しています。個人のパフォーマンスと併せて、どの仕事にどんな個性が合っているかも考慮して、世界全体で人材を育成しています。また、この評価体系は毎年更新しており、今年度から『平等性』のKPI(数値目標)を取り入れました。例えば取締役は全世界で男女半々にすることを取り入れました。北欧も含めて世界中のイケア法人で、すぐに実現するのは非常に難しいのが現状ですが、KPIに組み込むことで行動を促すのが狙いです」
――今後、日本でリーダーになる女性にアドバイスは。
「まずは正しいパートナーを選ぶこと。パートナーが家事や育児を半分やり、家庭を支えてくれることが重要です。夫選びはしっかりと時間をかけて。そして、もっと女性に自信を持ってほしいと思います。教育水準で男女差はありませんし、感情的な部分を生かしたり、上手にコミュニケーションをとったりできる人材、という観点で考えると、女性に優位性があるのではないかと私は思います。他の女性管理職と積極的に話して、支え合うことが大切ですが、ぜひ男性管理職とも積極的にコミュニケーションを取って、性別に関係なくすてきなリーダーになってほしいですね」
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スウェーデン・マルメ生まれ。同国のルンド大卒、1998年イケアグループ入社。インフォメーションマネージャーや執行役員を経て、2011年から中国・深圳店長を経験後、13年に米国法人の副社長に就任。16年から現職。
(佐伯太朗)