社員間ボーナスで意欲引き出す 変革に憧れ学生起業
ユニポス社長 斉藤知明氏(上)
「心」を無視したら、いい組織はつくれない
ミカンは提供を始めてから約2週間で20万ダウンロードを突破した。さらにユーザーから寄せられた声を反映していくと、みるみるうちにレビューも改善した。
成果を出す土台になったのは、「信頼し合い、背中を預け合えるようなメンバー同士の関係だった」と、斉藤氏は振り返る。そんな関係づくりのために、独自の工夫もした。1カ月に一度、あえて「互いの嫌なところを言い合う機会」を設けたという。
「現在進行形で仕事を進めているときにはなかなか言い出せない不満を、2人1組になって直接伝え合う。例えば『この間の意見、成果を出すために言ったことだとは理解しているけど、あの言い方には実は傷ついたよ』といったことです。そして、聞き手は反射的に言い返さず、まずは受け入れるのをルールにしました」

信頼し合えるチームづくりに、「褒め合い」の風土は役立つとみる
「褒め合い」の風土を醸成する現在のユニポスとは、一見すると相反する取り組みのようにも感じられる。だが、斉藤氏にとっては、つながる部分が大きい。日々の業務を進めていく過程では見落とされがちな人間性や、相手に対する気遣い、あるいはちょっとしたすれ違い――そうした部分をすくい上げる機会をつくることによって、「信頼し合えるチーム」になる。「それが個人の能力を最大限に発揮するための土壌になる」と、斉藤氏は語る。
新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、リモートワークを導入する企業が急速に増えた。取引関係のある企業からは「従業員一人ひとりが何をしているのか、どんな気持ちでいるのかがますます見えにくくなった」という悩みも聞くという。
「『会議』だけに照準を合わせれば、自宅からオフィスまで移動する時間が不要になるなど、効率性が上がった部分はもちろんある。ビジネスチャットを使えば、『さあ、雑談でもしよう』という場を設定することだってできる。でも、いい組織の条件は『効率的に作業ができる』というだけでは不十分です。『心』を無視したらいい組織はできない。それは、ミカンに情熱を傾けていた当時から持ち続けている確信です」
大学院には2週間ほど通って休学し、ミカンの最高技術責任者(CTO)として事業の成長へ力を注ぐことを決めた。しかし、ユニポスの親会社に当たる、IT企業のフリンジハチイチへの入社へと、方針を変えた。学生ベンチャーのCTOから転じて、第二新卒としてスタート。そして、入社2年目にして、ユニポスの事業リーダー、社長へ。斉藤氏の目を見開かせたのは、「プロのエンジニア」との出会いだった。
(ライター 加藤藍子)