飲まない人が日本経済を救う 「ゲコノミクス」が来る
『ゲコノミクス』
ゲコは客単価が低いのか
副題は「巨大市場を開拓せよ!」です。その潜在力はいかほどなのでしょうか。日本のアルコール飲料市場は出荷ベースで、3兆6000億円です。この数字をもとに著者はゲコノミクスの市場規模を約3000億円と試算します。そして、この市場を開拓するためのヒントが第4章で提示されます。ここでは非アルコール飲料のマーケティングについて、鍵となるコンセプトがいくつか挙げられています。
「ゲコ=客単価が低い」とは限らないと著者は強調します。お茶が1本60万円もする世界だってあります。フレンチやイタリアンにはワインが欠かせないという認識も変わりつつあります。最近はアルコール、ノンアルコールに関わらず食事や店の雰囲気に合う飲み物を提供する「ペアリング」が人気になってきました。ノンアルドリンクを提供することが客単価を上げ、競争力の強化につながるのです。「ゲコ」をターゲットにした経営の視点について、著者は次のように提案します。ちなみここで言う「ノミスト」は「飲みスト」、つまりアルコール愛飲者です。
ゲコノミストが幸せに過ごせるお店をつくれば、ほかのレストランとの十分な差別化ポイントになるでしょう。
重要なのは、ただノンアルドリンクを増やすのではなく、「ノミストに提供しているコンテンツと同じ満足度に仕上げられているか」という観点でのチェックをすることです。その上で「お酒を飲まないお客さまに向けて、お酒を飲む人と同じレベルで満足していただけるドリンクを用意している」ということをきちんと発信すれば、これまでリーチできていなかった層にアプローチできるはずです。
(第4章 ゲコ市場開拓のヒント 167ページ)
「ちびりちびり」に憧れも
本書の締めくくりは、お酒を飲まない糸井重里氏と藤野氏の「ゲコ対談」です。糸井氏は、自分は飲まなくても「ノミスト」は好きなのだそうです。むしろ、酒を飲める人に憧れる面もあります。藤野氏は「酒がすごいところは、いろいろな歴史や文化が醸成されているところ。そこに、ぼくら飲めない人間の憧れみたいなところがあって、飲めない人たちの、飲まないことによる文化がまだないですよね。そこをつくりたいですね」と糸井氏に語りかけます。
藤野 ないですね。
糸井 お茶を飲んでいますからね。
藤野 男同士とかで、恋人でもないのに、お酒をちびりちびり飲みながら、黙って時間が流れているけど、でも、いい感じ。あれはうらやましいですよね。
(ゲコ×ゲコ 特別対談 215ページ)
対談の最後に、藤野氏は酒を飲む人も飲まない人も、お酒があまり出ないところで楽しむ「ゲコナイト」という集いを紹介しています。そんな交流の場を通して、ゲコと「飲んべえ」が楽しく共生できるようなアイデアが、いろいろと出てくることを期待しましょう。
◆編集者からひとこと 日本経済新聞出版・酒井圭子
あなたの職場にお酒をムリに勧める上司・同僚はいますか? そんなときどう対応していますか?
ゲコノミストの本音満載の本書は、藤野さんがネットに寄稿した記事『「酒を飲まない人」をバカにする人たちは「大きな勘違い」をしている』がきっかけで生まれました。フェイスブックで1万以上シェアされるなどこの記事は世代を超えてバズり、コメント欄では多くのゲコノミストが「飲めないこと」によるつらい体験を告白したのです。お酒も飲み会も大好きな私にとって、ゲコノミストとの出会いは未知の世界への第一歩でした。
ゲコ市場(経済)をタイトルにうたっていますが、この本のもうひとつ大きなテーマは相互理解(社会)です。自分とは異なる体質・嗜好・思考の人を排除したり、無理強いをしたりしない。お酒を飲む・飲まないだけでなく、あらゆる事柄に関して受容の気持ちを持つことの大切さを教えてくれます。