入社以来、出社なし 気をつけたいテレワークストレス
産業医・精神科専門医 植田尚樹氏
彼女の場合、たまさか周囲が異変に気づいて産業医との面談に至りました。ただ、テレワークが広がるなか、そうした体調の変化に周囲が気づけず、そのまま放置されている事例も少なからずあるはずです。
「柔軟な働き方ができる」などと評価されることの多いテレワークですが、これまでなら雑談などで掬い上げることができた小さな変化などの把握は難しいようです。特に社会人としての経験の乏しい新入社員については、上司や同僚が配慮する必要があるでしょう。
テレワークで追い詰められる
テレワークがきっかけで、精神的に追い詰められることもあります。IT企業に勤める入社4年目の30代男性の事例です。
3月からテレワークで在宅勤務を始めたものの、1カ月ほどで、腹痛や下痢に悩まされるようになりました。
妻と乳幼児の3人暮らし。妻もテレワークで仕事をしているので、2人で交互に子供の世話をする必要があるといいます。頭では「当然のこと」と理解しているのですが、仕事が思うようにはかどらず、ついついイライラしてしまいます。
「こんな時期だからこそ、頑張りたいのに頑張れない……」。テレワークという従来とは異なる環境もあり、自分がやり遂げたいレベルまで、仕事ができない。仕事で一生懸命頑張りたいのに頑張れない。ちょうど新しい仕事を任されるようになり、これまでとは違う知識が必要なのですが、「勉強する時間もない」と漏らします。
在宅で働くうちに、いつも疲労困憊(こんぱい)して、強いストレスを感じるようになったといいます。「自分が我慢すればいいと思ってしまう性格もあってか、人に悩みを打ち明けられない」といい、妻にも打ち明けられずにいるといいます。
産業医として面談したところ、仕事に対してのモチベーションや向上心も高く、周囲に認められたいという「承認欲求」が強いように思えました。在宅勤務で上司や同僚との接点が少なくなったことから、「成果を上げて、認めてほしい」という気持ちをさらに高めたようにも見えました。また、在宅勤務で思うように仕事が進まないことにフラストレーションを抱えていました。
面談の結果、過敏性腸症候群の症状が認められたため、心療内科の受診を勧めました。あわせて、「自分自身で仕事のハードルを上げることはしないように」と助言しました。