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職場のハラスメント防止を企業に義務付けるパワーハラスメント(パワハラ)防止法が6月1日に施行され、大企業に防止対策が義務付けられました。中小企業については、2022年4月から適用されます。ハラスメント行為は決して、リアルな職場だけのものではありません。リモートワークでも十分に注意する必要性が高まっています。

携帯電話でねちねちと

アパレルメーカーに勤める20歳代男性の事例です。

入社して2年半。幾つもの県を担当して、顧客を訪ねて回る営業担当者です。遠距離を移動するため仕事が終わるのは毎日午後9時や10時ごろ。週末を除き、ホテル生活を余儀なくされています。

ようやく仕事には慣れてきましたが、倦怠(けんたい)感や動悸(どうき)に悩まされ、夜も眠れないようになったといいます。

原因ははっきりしていました。以前の勤め先の先輩で、先に現在の会社に転職、男性を引き抜いてくれた上司です。

毎日、終業を見計らったように電話をかけてきて「おまえをヘッドハンティングしなければ良かった」「おまえが結果を出さないと俺が会社を辞めなければならない」と小言を言われるといいます。怒鳴ることはないものの、ねちねちと繰り返し、長いときには1時間ほどにもなるといいます。

日々の仕事で上司と対面することはありません。しかし、携帯電話の着信音が鳴ると、動悸が激しくなり、不安に襲われるというのです。電話を取ったとしても、緊張のあまり話せないこともしばしば。それがさらに上司の怒りを招きます。こうして、悪循環に陥り、体調不良がひどくなっていきました。

テレハラ、リモハラに注意を

上司との関係が社員のストレスの原因となることはしばしばあります。上司の言葉が、部下の発奮や能力向上を願ってのものだとしても、部下の気持ちに響かなければ意味がありません。一方的に責め立てるような言動は部下をメンタル不調に追い込む恐れがあり、そのような言動はパワハラとして受け取られる可能性もあります。

特にテレワークやリモートワークでの携帯電話やパソコンを使ったコミュニケ―ションには十分な注意が必要です。対面とは異なり、表情や感情を読み取りにくいため、何気なく投げかけた言葉が、部下を傷つけ、追い詰めている場合があります。

今回の事例では、このまま放置すると体調不良を悪化させる恐れが大きいため、本人の同意を得て、人事部長に内容を伝え、配置転換するように助言しました。

テレワークが推奨される状況では、実際に上司と対面する機会は少ないので、パワハラは起きにくいと思われがちです。しかし、決してそのようなことはありません。将来的に働き方も多様になってくると思われます。紹介した事例のような「テレワークハラスメント(テレハラ)」「リモートハラスメント(リモハラ)」なども注意が必要です。

オンラインによる研修講座も

たびたびパワハラ問題が発生する会社では、社内でのパワハラに対する認識が乏しいところが多いようです。まずは、厚生労働省が設けた職場のハラスメントについての情報提供サイト「あかるい職場応援団」(https://www.no-harassment.mhlw.go.jp/)の活用をお勧めします。さまざまな基礎知識に加え、オンラインによる研修講座も用意、確認テストに合格すると受講証明書が発行されます。

こうして基礎知識を学んだ上で、外部講師などを招いて実際の事例についてディスカッションなどを行えばより効果的でしょう。

コロナ禍を契機に、テレワークは今後さらに定着すると見込まれています。新しい働き方には、新しい向き合い方が、働く者と会社の双方に求められています。

※紹介した事例は個人を特定できないように一部を変更しています。

植田尚樹
1989年日本大学医学部卒、同精神科入局。96年同大大学院にて博士号取得(精神医学)。2001年茗荷谷駅前医院開業。06年駿河台日大病院・日大医学部精神科兼任講師。11年お茶の水女子大学非常勤講師。12年植田産業医労働衛生コンサルタント事務所開設。15年みんなの健康管理室合同会社代表社員。精神保健指定医。精神科専門医。日本医師会認定産業医。労働衛生コンサルタント。

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