理想のスマートシティーは? デジタルで変わる職と住
アフターコロナのDX(上) 東京大学大学院准教授 高木聡一郎氏
都市生活の要素には、デフレーミングされたサービスで置き換えることが出来そうなものもありますが、「気軽な相談・立ち話」「雰囲気を楽しむ」など、すぐには技術的に実現することが難しそうなものもあります。
これらの多くは、仕事と直接関係がない「生活の余白」のようなものです。しかし、効率性の追求だけでなく、「わくわく」や感動など、感性を刺激するものこそが、今後都市に住み続けるための大きな理由になるのかもしれません。コロナによるリモート化は、都市やオフィスの本質的な価値を再考する契機となるのではないでしょうか。
スマートシティーのアカウンタビリティー問題を考える
世界中に広がった新型コロナの感染拡大の背景で、スマートシティーの議論はますます盛り上がりを見せています。スマートシティーといえば、自動運転やキャッシュレス決済など、華々しい新サービスの導入に注目が集まっています。ですが、都市のスマート化において誰が、誰に対して、どのような説明責任を果たすべきなのか、というアカウンタビリティーの課題も抱えています。
2020年5月7日、それまでスマートシティーをリードする未来都市構想として高い注目を集めてきたカナダ・トロントにおけるプロジェクトの終了が発表されました。サイドウォーク・ラボという企業が手掛けていたこのプロジェクトは街中のあらゆるデータをセンサーで収集して分析し、交通渋滞や大気汚染、騒音の緩和を図ることが含まれていました。しかし、どのように個人のデータを保護するのか、どのような形で保有するのかについて、プライバシーへの懸念があったようです。

スマートシティーのプロジェクトを進めるにあたってはアカウンタビリティーの問題を考える必要がある(写真はイメージ=PIXTA)
スマートシティーのプロジェクトにおいては、「公共性」「非任意参加性」「個別介入性」などの、都市特有の問題があります。
例えば、画像センサーで交通量や人の通行量調査を行う場合、そこを通行する人のデータは匿名化されたとしても、すべて何らかの処理がなされます。一定のデータの規模や収集率を実現しなければ、意味のあるインサイトを得ることが難しいからです。さらに、渋滞緩和のために特定の時間帯の通行料金が高くなったり、電力消費が大きい作業は電気代が安い夜間に行うよう誘導されたり、多くの人が参加しなければスマートシティーの効果が発揮されないとすれば、個人の生活にも制約が出る可能性があるのです。
誰がどの範囲の説明責任を果たすのか、影響範囲がどこまでなのかをどのように確定できるのか、といったことも考える必要が出てくるでしょう。
すべての人に事前に同意を取ることが難しい状況を考慮すると、アカウンタビリティーを発揮して、スマートシティープロジェクトを成功させるためには、そこに関わる人々の参加や合意形成が重要なものになっていくことが考えられます。
そのためには、誰もが参加できる自由な討論の場としての「フォーラム」、そしてフォーマルな決定につながる意思形成を行う「アリーナ」、そして決定に不服がある場合に申し立てを行い、紛争解決の場となる「コート」の3つの場を有機的に連携させることが必要です。
スマートシティーの取り組みが本格化していく中で、今後、一般市民の参加による公共的な政策に関する合意形成がどのように実現されるのか、注目していきたいと思います。
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1997年慶應義塾大学法学部政治学科卒、東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(学際情報学)。ハーバード大学ケネディスクール行政大学院研究員(フェロー)などを経て、19年より東京大学大学院情報学環准教授、国際大学GLOCOM主幹研究員を兼務。専門分野は情報経済学、デジタル経済論。