医師兼起業家の草分け 医療事故隠蔽事件が転機に
メドピア社長 石見陽氏(上)
身近なあこがれだった「祖父=赤ひげ」
千葉県佐倉市で生まれ育ち、歴史小説を愛読する少年だったという石見氏。もともとは文系志望だったが、母方の祖父とおじ2人が医師という家系だったこともあり、いつしか医学の道を志した。とりわけ影響を受けたのは祖父だという。

母方が医師の家系だったという環境で、自然と医学を志した(写真中央が石見氏)
「東京都足立区で開業していて、小さいうちからよく遊びに行っていました。祖父は戦後の食うや食わずの時代に、生活の苦しい患者さんからは診療費を受け取らないという、(山本周五郎の小説に登場する)『赤ひげ』のような医者でした。母からも『家の米びつはいつも空っぽで、患者さんのところに行っては野菜をもらっていた』という話を聞かされ、幼心にそんな祖父を尊敬していました」
「ところが、私が小学校5年のときに、祖父は黄疸(だん)が出て、あっけなく亡くなってしまった。冷たくなった祖父のほおを、葬式で触わったとき、人間の死というものを初めてリアルに感じました。そういう出来事がつながって、将来を考えたときに医師が一番、しっくりきました」
もともと好奇心が旺盛で、狭い世界に閉じこもるのが嫌いな性格だった。医学部時代は勉強だけに飽き足らず、コンピューターを熱心にいじっていた。大学院でも研究の合間を縫って、異業種交流会に出かけるなどして視野を広げた。幼心に抱いた志に加え、こうした進取の気性も、後の起業には役立ったようだ。
石見氏は2005年、転職を希望する医師が人材紹介会社に一括登録できるサービスを立ち上げた。応募する病院ごとに履歴書を作るのは、かなりの手間と時間がかかり、忙しい医師にとっては負担が大きかった。一括登録できるようにすれば、医師は面倒を省けて、登録増が見込める。人材紹介会社から情報提供の手数料を受け取ればビジネスとして成り立つと踏んだ。
最初のうちは研究の片手間に週1日程度の稼働だった。しかし、やがて実験の成果を論文にまとめていく作業と、ビジネスとの共通点に気づいたという。
「論文では最初にIntroductionとして、研究の背景や自分の着眼点・問題意識を書き出し、Materials and Methodsで具体的な研究手法を説明します。Resultsで結果をまとめ、最後のDiscussionで結果についての考察を加えます。ビジネスの流れも基本は同じなんですね。マーケットと切り口を決めて、ヒト・モノ・カネを投入し、その結果、利益が上がったのかどうかを検証して、次の展開につなげていく。これは普段の思考回路が生かせて、面白いなと思いました」