目指した「世の役に立つ技術」 見続けた父の背中
NTTデータ副社長 藤原遠氏(上)
欧州旅行で多様性を実感 米国留学でMBA取得
研究結果をまとめ上げて卒論を提出した後は、友人らと初めて海外へと飛び立った。卒業旅行で向かったのは欧州。「ローマに入り、パリから帰国する旅でした。旅の頼りになったのは、域内なら鉄道がほぼ乗り放題のユーレイルパスと、トーマス・クックの時刻表。最初だけはみんなで移動しましたが、すぐに単独行動を始め、欧州を2週間ほどウロウロしました」(藤原氏)
スイスではユングフラウヨッホに登り、ウィーンではオペラを天井桟敷から見た。「様々な文化が継承されているとともに、人々も文化も多様性にあふれていて、日本との違いにうなってばかりいましたね」と、藤原氏は目を輝かせながら当時を回想する。
そうした海外で多様性に触れた刺激は、分割前の旧NTTに新卒で就職した後のキャリアにも大きく影響した。28歳で米国の大学院に留学し、経営学修士(MBA)・工学修士(ME)を取得したのも、そんな海外での刺激が出発点となった。

著書ではサステナビリティーとイノベーションの組み合わせを提案した
工学部卒エンジニアの枠にとどまらない発想は今も変わらない。6月には初の著書『サステナベーション』(日本経済新聞出版)を出版した。この著書ではサステナビリティー(持続可能性)とイノベーションを組み合わせるという新しい発想「サステナベーション」を打ち出している。「IT(情報技術)を中心としたイノベーションを、地球規模の問題解決に役立てる好機は今しかないのです」と藤原氏は熱っぽく話す。
この6月までは欧米分野・グローバルマーケティング担当の副社長として、世界規模でデジタル事業を強化するプロジェクトを率いてきた。現在はコーポレート総括・技術総括担当兼人事本部長に担当が変わり、グローバルでの経営戦略や次世代の技術戦略づくりに力を注いでいる。副社長の重職に就いても、初期AIの研究に打ち込んだ当時のような情熱を失わない藤原氏は、工学系出身者が経営ノウハウを備えたうえで、マルチな分野に采配を振るえる経営者へと転じていく、昨今の理系キャリアパスの先駆者ともいえるだろう。
(ライター 三河主門)