なぜ優秀だった部長が失敗するのか 社長感覚の必要性
20代から考える出世戦略(92)
「……それは……売り上げが……あがればなんとかなるかと……」
「従業員の皆さんが毎日全力で働いておられることは存じ上げています。そのための人事評価制度も刷新して機能させていますよね。けれども、社長が示す方向が崖の行き止まりのような道だとすれば、従業員の努力を無駄にするどころか、とんでもない事態を招くことになりませんか?」
「……」
この社長は、部長時代まではとても優秀な方でした。前社長が示す戦略を実行することにたけており、部下のモチベーションを高めながら確実に目標を達成してきました。そうして子会社社長に任用されたのですが、結果として方向性を間違えてしまっていました。
言われたことを守る部長・ゴールを示す社長
この事例の原因を「利益額を見ていないからだ」とか「利益が売り上げについてくるという間違った認識だからだ」というように読み解くことは簡単です。
けれども人事の観点から見れば、違うことがわかります。
彼は経営者の役割を教わらないまま、部長の延長で社長になってしまっていました。
彼は部長時代、決まったゴールに従って業務を進めることにたけていました。
その一方で、決まったゴールに異議をさしはさんだ経験がありませんでした。上司に物申すことは彼にとってはありえないことでした。
だから、どこかで「この道はおかしいかもしれない」と思っても、目指すゴールを変えるという発想にいたらなかったのです。
それは、雇われている立場での限定された発想でした。
仮に損失が出たとしても、それは会社が負う損失であり、自分にはあまり関係しない。せいぜい昇給がなくなるとか、賞与が減らされるくらいのことだ、という風に考えてしまう癖がついていました。決して会社が倒産するということは想像していませんでしたし、最後には持ち株会社が守ってくれると安心しきっていたのです。
しかし経営者になるということは、会社を存続させることが最大の責務です。そのために、従業員一同をどこに向かわせるのかを決めなければいけません。まさに危機感を持って、ゴールを定めることが仕事なのです。
そのことを理解しないまま、どこかで読んだか経営者仲間に聞いたかした「売り上げはすべてを癒やす」という言葉に黙々と従ってしまっていたのです。