維持費3割減も 働きやすいスモールオフィスの選び方
日総ビルディング・大西紀男社長に聞く
――スモールオフィスを選ぶ際のチェックポイントはどこでしょうか。
「立地条件は(1)ターミナル駅などから徒歩5分以内(2)大通りに面している(3)エントランスが洗練されているか――などが重要な要素です。取引先が訪れることを前提に選ぶ必要があります。社員にとっての職場の快適性を確保することも大切です」
「都心部でも、1棟全てをスモールオフィスで供給している小型ビルならば、大型ビルよりもコストが抑えられ、テナント企業も初期費用が安く済みます。冷凍菓子の独自技術を持つスタートアップ企業は、社員5人ながら東京駅近くでグレードの高いスモールオフィスを選び、クライアントの信用を獲得して10カ月でより広いスペースへ移りました」
「IT系のベンチャー企業の多くは東京・渋谷に拠点を持ちました。IT企業が集積しており、社長と同じ20~30代の経営トップも多く、定期的に情報交換などができるためです。当初は2、3人が利用する専用スペースがほどなく倍の広さになり、さらに現在は同じサイズを2部屋借りています」
「地方に本社を持つ企業は、東京駅近くのオフィスを借りるケースが多いです。他方、新横浜に入居した外資系企業もあります。オーストリアに本社のある自動車部品会社は、横浜市に日産自動車の本社があり、関連部品の製造会社が神奈川県内に集積していること、東海道新幹線を利用すればトヨタ自動車やホンダ、スズキなどへのアクセスが良いことなどを総合的に判断して新横浜に決めました。同じ面積でもコストが東京地域の半分である点も魅力的だったようです。国内企業にも参考になるかもしれません」
受付機能もチェック
――スモールオフィスの機能面はどこで判断すべきでしょうか。
「情報のセキュリティーが守られていることが第1です。さらに床から天井まで間仕切り壁が設置され、防音性が高いことも求められます。弁護士や公認会計士たちの利用するケースが多くなっています。企業の合併準備のために短期間借りられたこともあります」
――初めて利用する際に見落としやすい入居条件は。
「エントランスの受付は秘書的な業務もこなしてくれるのか、土日でも空調が利用できるかどうか、その場合の時間外料金はいくらなのかなど付帯サービスの説明を受けましょう。設備の不具合などのクレーム対応を引き受けている主体も確認したいものです。ビルのマネジメント会社に外部発注していると対応が遅れる可能性もあります。入居してから2年間は退去禁止の条件があるとか、キャンペーンでの大幅な割引があるなどのスモールオフィスは避けた方が無難でしょう」
――新型コロナ禍の収束が見えず、多くの中小企業が極めて厳しい経営を余儀なくされています。大西社長はかつてバブル崩壊後の地価・株価下落のあおりを受けて業績が悪化、銀行管理下で債務整理せざるを得ませんでした。それでも現在の日総ビルディングを新たに立ち上げ、再起できた秘訣は何だったのでしょうか。
「一時は米国サンフランシスコでホテル事業も手掛けていたのですが、1989年からの金融引き締め、不動産融資の総量規制、地価税導入などで急激に経営環境が悪化しました。バブル潰しの政策が一気に展開されたため、不動産業者が軒並み傷ついたと思っています。銀行団からは1000億円近く借り入れており、当時、元本返済棚上げや金利減免などの金融支援を受けました」
「雇用に関しては、銀行の要求で50人いた社員を30人にまでリストラせざるを得ませんでしたが、給与カットまでは踏み込みませんでした。自分の給料を下げても社員の方はなんとか維持しようと努力しました。そうした気持ちが通じたのか、日総ビルを立ち上げたときのメンバーは、旧会社からの社員で、資本金の一部も出資してくれました」
「もう一つは金融機関と最後まで誠実に向かい合っていたことです。経営者失格の烙印(らくいん)を押された形ですが、資産状況や資金繰りなどのデータはすべて銀行側にオープンにし、必ず毎回自分が出向いて説明しました。短期金利分だけは、なんとか払い続けました。こうした点をメインバンクの横浜銀行の副頭取が認め支援してくれたのです。経営に欠かせないのはヒト・モノ・カネ・情報といわれますが、とりわけ苦境の時に一番大切なのはヒトを大事にすることだと肝に銘じています」
1946年横浜市出身。三菱信託銀行(現・三菱UFJ信託銀行)に入行後、74年に父の創業した日本総合建物に入社。75年社長。横浜地区などを中心にデベロップメント事業を展開。98年日総ビルディングを設立、同社顧問。2002年、日本総合建物社長を辞任(同社は自己破産手続きにより消滅)。03年、日総ビルディング社長。著書に「"シェアリング"のオフィス戦略」(日本経済新聞出版)。同社は12年から高級スモールオフィス事業を推進。東京都千代田区、中央区、港区、渋谷区、横浜市に合計17棟のビルを保有・管理し売上高は約49億円(19年12月期、連結)。
(松本治人)