デジタル技術に限界あり 人を動かすのはハートと言葉
人事のプロ、八木洋介氏に聞く(2)
本質と目的を突き詰めたら
ここで「本質」という言葉を使いました。そもそも「本質」とはいったい何でしょうか。自分でも一生懸命に調べてみましたが、納得できる答えはありません。英語にも本質に見合うふさわしい単語がありません(「エッセンス」とも言い切れない)。
結局、「本質」というものは、一つではなく、たくさんあるものかもしれません。ある目的があって、それに合致した考え方や行動の一つひとつが「本質」というものではないか。そう考えると、「本質」とは、「それがないと目的が達成できないもの」と解釈したらよいのでは、という境地に至りました。
だからこそ、「目的」が大事になってくる。各界のリーダーが、どんな「目的」を持って動いているのか。私たちもそれを見極めることが大切になってくるのです。最近のソニーに代表されるように、「パーパス(目的)」を経営の柱に掲げるグローバル優良企業も増えています。
それでも、世界のリーダーの中には、まだまだ金銭や覇権ばかりを目的に据えているように思える人々がいますよね。約2500年前にアリストテレス、孔子、釈迦をはじめ数々の先人らが「何が正しいのか」という哲学的な問題に言葉を残してくれましたが、我々はまだその課題に明確な答えを持っているようには見えません。大変残念なことです。
偏狭な価値観への戒め 江戸の昔からSDGsあり
「目的」が大事だと言いました。では、これからの我々の「目的」はどのように設定すればいいのか。真剣に議論すべき時期に差し掛かっています。今こそ、中国、米国、日本という、それぞれの国家に閉じた価値観から抜け出すべきでしょう。私たちは、どうすれば世界を「より良く生きられる場所」にできるかを考えなければなりません。
企業活動においても、SDGs(持続可能な開発目標)のように、社会的意義を考えることの重要性に関して議論を始めました。SDGsは国連が主導して提唱したものですが、私は「日本から発信できたはずなのに」と、悔しく思っています。日本には300年以上も前の江戸時代から、「三方よし」という経営哲学があったのですから。「売り手よし」と「買い手よし」の満足は当然のこと。「世間よし」の言葉通り、社会に貢献できてこそ、という考え方です。まさにSDGsの思想と同じですよね。
米国も気候変動に関する国際的枠組み「パリ協定」を離脱する、などと言っている場合ではないですね。「三方よし」を大切にしてきた国の人として、自国の利益ばかり考えたり、覇権争いをしたりする者に対して、私たちはしっかりした態度を持っていたいと思います。
(聞き手は村山浩一)
people first 代表。京都大学経済学部卒。1980年日本鋼管(現JFEスチール)入社。92年米マサチューセッツ工科大学(MIT)スローン経営大学院で修士号(MS)を取得。99年から米GEで日本およびアジアの人事責任者を歴任。2012年からLIXILグループ執行役副社長(人事・総務担当)。17年1月people firstを設立。