1年目から三つ星 素人力で「好き」凝縮した23室の宿
繁田善史・ブレイブマンホスピタリティ&リゾーツCEO(上)
「自分の思いが詰まったホテルを」
繁田氏がホテルを建てようと決めたのは、自らが大の旅好きだったからだ。ホテル・旅行の業界人に旅好きは珍しくないが、繁田氏の場合は並外れている。やたらと値の張るホテルに泊まるとか、美食にふけるというわけではない。こだわりがマニアックなのだ。様々な旅を重ねるうちに、「だんだんと動機がピンポイントになっていった」と、繁田氏は振り返る。
目当てはホテルの立地条件であったり、乗り換え空港のラウンジであったり。あるエアラインの特別な機体に乗りたいという熱意につき動かされて、その便に合わせた旅を組み立てたこともあるという。そうした長年のこだわり旅の中でも、強い印象を残したのがスイスにある、絶景の山岳ホテル。欧州随一の標高を誇るホテルからはアルプスの山々を見渡せた。「最大の魅力である景色を楽しんでもらうという一点張りのすがすがしいスタンスに心を動かされた」(繁田氏)。モガナの構想はそこから動き始めた。
たくさんの宿を訪ねるうちに、繁田氏は自分の好みに気づいた。建築が大がかりであるとか、歴史が長いとかの売り物よりも、「思いが詰まったホテルかどうか」が自分なりの感動ポイントだった。やがて「自分も思いが詰まったホテルをつくりたい」という気持ちが強くなった。
もともと大阪府堺市出身で、同志社大学経済学部を卒業していて、京都はなじみが深い。「オンリーワンのホテルを建てるなら、やはり京都しかない」と決めて、準備を進めた。過去の旅体験を総動員して、納得のいく場所、建築家、内装などのアイデアを練り上げた。最良のアドバイザーになってくれたのは、たくさんの旅を共にした妻の有子さんだった。

2階には大理石カウンターのシックなバーが用意されている
理想のホテル像を追い求めた結果は、常ならぬホテルだった。たとえば、常設のレストランはない。大浴場や宴会用座敷もない。客室にはテレビがない。一方、2階には本格的なバーが用意された。長さ8メートルのカウンターは御影石でこしらえてあり、天井には金箔が張られている。ホテルビジネスでは重要な収益源と位置づけられることの多いレストランをあえて構えなかった理由を、繁田氏は「京都には街中にいくらでもおいしい料理屋さんがある。ぜひ京都の食をいろいろと味わってほしい」と語る。バーを備えた理由は「街での食事から戻って、眠りに就く前に、くつろげる時間を提供したかった」からだ。
しかし、旅の楽しみでもある食べ物を切り離しているわけではない。泊まり客の要望に応じて、京懐石の名店「懐石 瓢樹(ひょうき)」の割烹料理を夕食として部屋で食べられる1泊2食付きの宿泊プランを用意している。「瓢樹」の料理人がモガナへ出かけてこしらえる出張割烹の形だ。「瓢樹」の料理を懐石スタイルで味わえる部屋出しサービスはモガナだけだという。つまり、ありきたりのことはしないのがモガナ流ともいえる。