1年目から三つ星 素人力で「好き」凝縮した23室の宿
繁田善史・ブレイブマンホスピタリティ&リゾーツCEO(上)
旅は「非日常」ではない

朝食には淡路島の食材がふんだんに盛り込まれる
モガナの食を象徴するのは部屋出しの朝食だ。ランチを抜いても構わないほど、しっかりした和の朝餉(あさげ)を楽しめる。メインディッシュにあたるのは、大皿に盛られた「fukiyose(吹き寄せ)」。たっぷりのおかずが皿を彩る。ほとんどの食材は淡路島(兵庫県)から運ばれている。
実は淡路島は有子さんの故郷。かつて京都の皇室・朝廷に食べ物を貢いだ地域「御食国(みけつくに)」だったほど、食材が豊かな土地柄を生かして、京都の賓客に美食を届けるというストーリーを朝食に託した。「京都にふさわしい物語性や日本古来の美意識をホテルサービスと重ね合わせたい」と、繁田氏は朝食に込めた思いを明かす。ここで貫かれているのも、オンリーワンを重んじるモガナ流ポリシーだ。
一時期はインバウンド客でにぎわった京都のホテル・旅館業界だが、モガナは23室という規模もあって、最初から「インバウンド目当て」ではなかった。むしろ、「別宅のような感覚で、住むように訪れてほしい」(繁田氏)という。8月からは会員制サービス「MOGANA members(モガナメンバーズ)」もスタートさせた。コンセプトは「京都を組み込んだデュアルライフ(2拠点生活)」だ。
たくさんの旅を経験してきたからこそ、繁田氏は「旅を『非日常』とみなす考え方が嫌い。そう考えてしまうと、旅の終わりがつらく思われ、日常が苦しくなってしまう」と、旅のとらえなおしを呼びかける。旅の時間を「非日常」と特別扱いするのは、ホテル・観光業界の「お約束」だったが、繁田氏は疑念をはさむ。「旅を『日常の延長』ととらえるほうが伸びやかに旅を楽しめる」という持論が今回の会員制サービスの根っこにある。
会員制サービスは主に関西圏の利用者がモガナに立ち寄り、翌日、朝食を食べてそのまま仕事に向かうような使い方を提案する。週末のリフレッシュに役立てるようなパターンも想定している。「1週間の流れに、自然体で溶け込むようなホテルになれれば」と、繁田氏は願う。もともと関西圏の常連客が多く、下地があった。コロナ禍の影響で、実現が早まったが、以前からあった発想だという。
京都の宿は、外から京都を訪れる旅人を迎えてきたが、「地元の人に好きなように使ってもらえる宿でもいいはず」と、繁田氏は宿のパラダイムシフトを提案する。ホテル・観光業界で勢いづく近場観光プランの「マイクロツーリズム」とは、地元客の迎え方や普段使いの気安さなどの点で似て非なる発想だ。「『ホテル』という概念にとらわれない、新しい価値を創造する場所でありたい」という願いを名前に掲げるモガナは、コロナ禍との向き合い方でもオリジナルにずれている。