デザインホテル超える「個だわり」 我流の美意識貫く
繁田善史・ブレイブマンホスピタリティ&リゾーツCEO(下)
独自の目利きでよりすぐった逸品ぞろい
「ダイソン」のドライヤーのような家電製品は別にして、多くは日本の伝統工芸作家や国内のデザイナーと語り合ってデザインを作り起こした。自分たちが好きなプロダクトを、もっと広く知ってもらいたいという思いが下地にある。ただ、ホテルの「備品」となる以上、泊まり客にとっての使い勝手を盛り込んでもらう必要があり、「じっくり相談した」(繁田氏)。丁寧な練り上げの末、日本のよさを伝える「ジャパンクール」にとどまらない、独自の「繁田クール」が生まれた。
たとえば、草履に似た部屋履きサンダルはファッションブランド「matohu(まとふ)」のファブリックを鼻緒に使っている。ソファに置かれたクッションや洗面台にある歯ブラシ(歯科医師が監修)も「まとふ」が手がけた。デザイナーデュオの一人である堀畑裕之氏も繁田氏と同じ地元・京都の同志社大学卒で、京都に縁が深い。東京コレクションの看板的存在となっているブランドだけに、何ともぜいたくなキャスティングだ。
「京都だけに限定しているわけではない」と繁田氏が言う通り、国内各地の創り手に目が行き届いている。金沢市のプロダクトデザイナー・原嶋亮輔氏は作務衣(さむえ)に似た和風の部屋着をデザインした。フェイスタオルは「今治謹製」。水を受けてカッコーンと鳴る「ししおどし」を思わせる形のダストボックスを手がけたのは福井県発のライフスタイルブランド「MOHEIM(モヘイム)」だ。「日本文化のよさを発信していきたい」というオーナー夫妻の思いがうかがえる。

坪庭が見えて盆栽もある「MOGANA GARDEN」の部屋
挙げていけばきりがないほど、たくさんのブランドやクリエイターが選ばれている。言い方を変えれば、統一されていない。しかし、全体として眺めると、不思議に互いがなじんで映る。繁田氏は「同じテイストでまとめすぎてしまうと、かえって退屈に感じられる。あえてそれぞれをずらすことによって、全体として趣が深くなる」と、破調のハーモニーを説明する。
部屋の造作も凝っている。6~8階に1室ずつある「MOGANA ROOM」はそれぞれに雰囲気の異なる特別ルームだ。6階の「MOGANA GARDEN」は京都の伝統的な坪庭の眺めが楽しめる。室内には盆栽も置かれている。8階の「MOGANA BLACK」は名前の通り、黒主体のシックなたたずまい。バスタブは「アフリカ・ジンバブエから黒御影石を運び込んでこしらえた」(繁田氏)。こういったグローバルな目利きには、夫妻が世界を旅した経験が生きている。

「SHIGETA PARIS(シゲタ)」のアメニティーがあるホテルは世界でここだけ
泊まった女性客を喜ばせるのは、アメニティーの特別感だ。化粧スペース・バスルームに足を踏み入れた女性客の多くは、パリのオーガニックコスメブランド「SHIGETA PARIS(シゲタ)」のシャンプーやボディーウォッシュを見て驚くようだ。「モガナ」は「シゲタ」との間で、世界初のコラボレーションを実現している。このオンリーワンを求めて予約を入れる例も珍しくないという。
もともと妻の有子さんが「シゲタ」のスキンケア商品を愛用していた。ホテルを開くと決まり、アメニティーブランドを選ぶにあたって、有子さんに迷いはなかった。ただ、どこのホテルとも組んでいなかった「シゲタ」からは再三、難色を示されてしまう。それでもあきらめなかった有子さんのたび重なるお願いの末に、ようやくOKが出た。「妥協する気はなかった。そんなの意味がない。自分が信頼を持てるスキンケア商品でないと、お客様に自信を持って提供できない」という熱意が世界初のコラボを実現に導いた。