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「仕事は手段にすぎない」 神亀酒造7代目の教え

自分にとって、オタクになれるほど情熱を注げる仕事とは何なのか――。思案の末、頭に浮かんだのは、修士論文のテーマにしたクラウドファンディングだった。論文では日本国内の先駆けとして、ミュージックセキュリティーズを取り上げた。調査に協力してもらったことをきっかけに、アルバイトもしていた。

慶応義塾大学大学院の修士論文のテーマにクラウドファンディングを選んだ

慶応義塾大学大学院の修士論文のテーマにクラウドファンディングを選んだ

2000年に創業した同社は、ファンから小口資金を集め、ミュージシャンを応援する「音楽ファンド」を立ち上げたことで知られる。猪尾氏は、出資者がプロジェクトの利益から配当という形でリターンを受け取る「投資型クラウドファンディング」のプラットフォーム化に取り組みたいと考えた。音楽にとどまらず、ほかの分野にもこの手法を広げれば、熱い思いを持つ個人や小さな企業が、より自由にやりたいことにチャレンジできるはず――。同社の経営陣に思いの丈を語り、自分にその事業をやらせてほしいと訴えた。同社の構想とも合致し、05年、27歳で同社に転職した。

計画通り、音楽ファンドに続き、飲食店のファンド、さらに純米酒のファンドを立ち上げた。そこで、後のJOINS起業に大きな影響を与えることになる「仕事人」と出会う。埼玉県にある、江戸時代創業の酒蔵、神亀酒造7代目の故・小川原良征さんだ。

戦後、安価に造れることから、醸造用アルコールを添加した日本酒が主流となる中、全国の酒蔵の中でいち早く、すべての酒を純米酒に戻したのが小川原さんだった。純米酒を造りたいと願いつつ、資金面で苦労する酒蔵を支援するため、純米酒ファンドの活用が始まった。猪尾氏は小川原さんのもとに足しげく通うようになる。そこで深く考えるようになったのが、「仕事をする意味」だ。

「大手企業でもベンチャーでも、人をつき動かすのは、当面の売り上げです。でも小川原さんは、全然違いました。『代々受け継がれてきた日本酒文化を、次の世代に引き継ぐために仕事をしている。会社もそのために存在する』と言うんです。我々はつい、仕事をすること自体を目的化してしまいがちですが、仕事とは手段にすぎないというのが小川原さんの考えでした」

「さらに、文化を次世代に引き継いでいくためには、会社をつぶしてはならない。だから、適正な利益を確保しなくてはならないともおっしゃっていました。実際、小川原さんは高付加価値化を進め、しっかりと利益を確保する仕組みをつくり上げていた。利益を出す意味ってそういうことなのかとすごく『腹落ち』しました」

もう一つ、小川原さんの仕事ぶりで驚いたのは、自分の酒造りや経営のノウハウを、思いを同じくする他の酒蔵の経営者にも惜しみなく教えていたことだ。日本酒文化を引き継いでいくには、酒蔵仲間を減らさないことが何より大事。ライバルを蹴落とすのではなく、業界全体を盛り上げたいという信念があった。

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