厳しさ増す銀行経営 デジタル化で若者を取り込めるか
(2)経営
東京商工リサーチによると、新型コロナ感染拡大を受けた上場企業の資金調達は6月上旬までに9兆6758億円に達しました。トヨタ自動車の1兆2500億円を筆頭に、ANAホールディングスの9500億円、日産自動車の7125億円、JFEホールディングスの7000億円など大企業の資金調達が相次いでいます。
問題は融資の「量」が増えても、貸出金利が低下していることです。日銀がまとめた「貸出約定平均金利」によると、大手銀行の20年5月の新規融資の平均金利は0.324%で、1993年の調査開始以来、過去最低となりました。地方銀行の同金利も0.562%とこちらも過去最低です。
貸出金利が低いのは、コロナ前の財務状況をもとに決めているからです。コロナ前の日本企業の業績は総じて好調で、銀行にとっては貸し倒れリスクが低いため、貸出金利も低くなりやすいのです。さらに、政府の実質無利子・無担保融資の存在も金利の押し下げに効いています。本業の貸出でもうけられないところに今の銀行の苦しさがあります。
デジタル化への遅れも苦境の原因に
外部環境のせいばかりではありません。積極的な経営改革を進めてこなかった銀行にも原因があります。とりわけ、デジタル化への対応は出遅れています。法人向けも個人向けも対面を前提とし、店舗を起点にした営業を続けてきました。デジタルサービスへの移行が進まず、コロナ禍で銀行の弱点がより浮き彫りになったともいえます。
銀行の主力業務である送金ビジネスでは、コストも安く、決済スピードも速いフィンテック企業が台頭しています。危機感を募らす銀行は、デジタルに詳しい人材を中途採用したりするなどして、金融DXを強力に進めようとしています。これまでの自前主義を捨て、IT企業との提携にも積極的です。
例えば、みずほフィナンシャルグループとソフトバンクはスマートフォンを活用した金融事業で包括提携することを決めました。三菱UFJフィナンシャル・グループは銀行やネット証券の分野でKDDIと連携、三井住友フィナンシャルグループはネット証券最大手を抱えるSBIホールディングスと包括提携しました。デジタル戦略を進めながら、銀行が取り込めていない若年層を開拓する狙いがあります。デジタルを使った新しいサービスの開発はもちろん、銀行のコスト構造を大きく見直さないと、苦境から脱するのは難しいです。
(「Q&A 日本経済のニュースがわかる! [2021年版]」から再構成しました)