海城は時代の風を読む 学校改革し続けた30年
海城中学高等学校(上)教育ジャーナリスト・おおたとしまさ

「プロジェクト・アドベンチャー」での一幕(2015年筆者撮影)
(中)建物自体が教材に 海城の新理科館が生む新しい学び >>
「新学習指導要領に対応」では遅い
教育の世界では「学習指導要領が新しくなるから、それに対応する」というフレーズが当たり前のように聞かれる。しかしこのフレーズ自体が矛盾であると私は思う。
時代に合わせて教育も変化しなければいけない。そして時代は常に変化している。であるならば、学習指導要領が変わるのなど待たずに、現場の判断で教育も変わって当然だ。学習指導要領が変わってから学校を変えるのでは遅い。しかも新しい学習指導要領が指し示す方向性が正しいかどうかもわからないのだ。
それなのに、「お上」からの「お達し」が出るのを待って、それをありがたく読み解いて忖度(そんたく)する態度が、教育の世界にはまん延している。その結果がいわゆる「ゆとり教育」の右往左往であったり、「アクティブ・ラーニング」という言葉の一人歩きであったりしたわけだ。
学習指導要領を変えてもうまくいかないのなら、と、大学入試を変えることで高校以下の教育を変えようとしたのが、2020年度の大学入試改革だった。だがそれも当初の思惑通りには進まず、むしろ「結局変わらないではないか!」というムードがまん延した。
ただし教育が変わらなくていいという話ではない。そもそも高校以下の教育が大学入試と強く結びつきすぎてしまっていること自体がこの国の教育制度のいちばんの問題なのに、むしろ大学入試をテコのように使おうとする発想自体が間違っていただけだ。あるいは全国一律に「右向け右!」で変えようとすること自体に無理があるのである。
以上のことから導かれる単純な結論は、「お上」からの「お達し」を待つのでは遅いということだ。現場の教員たちが時代の変化を自分たちの肌で感じて随時教育に生かす学校はとっくに「お達し」の先を進んでいる。その好例のひとつに挙げられるのが、東京都新宿区にある海城中学高等学校だ。いまからおよそ30年前、1992年に独自の学校改革をスタートした。