建物自体が教材に 海城の新理科館が生む新しい学び
海城中学高等学校(中)教育ジャーナリスト・おおたとしまさ

科目の壁を越える意味で吹き抜けを採用した(学校提供)
もちろんアナログ的アプローチも忘れていない。
「いま高1では、学年全員に温度計を貸し出して、3週間くらい家で気温を測って記録させました。そうすると結果的に7000個くらいのデータが集まります。そのデータを自由に使って、課題の設定から自分たちで決めさせるという実習をやりました。たとえば前線の通過や台風の接近に伴う気温の変化など、学習事項を裏付けるほか、データの中から何らかの情報を読み取れないかということに取り組んでいる最中です」
目の前の生の素材に対し、自分なりの視点から問題意識をもち、自ら実験方法を考案し、得られた結果から考察し、そこから導かれた自分の考えを表現する力を育てたいのだ。言われた通りの作業をこなして、教科書通りの実験結果を得て、「実験成功!」と言って授業を終えるのとは科学的体験の構造からして違う。
結局のところ、何百年も前の中世の科学者がすでに結論を出していることを再確認するだけに終わるかもしれない。でもそれを自力でやったのだとしたら、中世の科学者の偉業に肩を並べたも同然だといえる。中高生のうちに涵養(かんよう)すべき科学的感受性とは、そういうことだと私は思う。
さらに、個別の視点で学んだことを、生徒たちが互いに共有しやすいように、「交流」「発信」も新理科館のコンセプトになっている。調べ学習ができるインフォメーションラウンジや、研究内容を発表するプレゼンテーションルーム、さらにグループディスカッションがしやすいように壁一面をホワイトボードにした教室も用意した。
「個」の興味や学びを、「集団」として共有して活用し、相乗効果を発揮し、イノベーションを起こすことができる。これぞ変化の激しい時代を生き抜くために必要な態度であり、海城が目指す「科学的思考力を備えた『新しい紳士』」なのである。