独学へといざなう 分断時代を予言した歴史家の思考法
紀伊国屋書店大手町ビル店
考えるのではなく、学ぶ
全体は序章プラス8章の構成。まず序章で「思考の出発点」が語られ、「入力」「対象」「創造」「視点」「分析」「出力」と6章まででインプットからアウトプットまでの全過程を追う。出力した結果が批判されたとき、批判にどう向き合うかを7章「倫理」で説き、最後の第8章「未来」で、ここまでの議論を振り返る形で「新型コロナウイルスの大流行」という事例を考える。
トッド氏の思考スタイルを断片的に拾っていくと、まず「考えるのではなく、学ぶ」のだという。「ずっと本を読み、ひたすら学び続けてきた」と著者は書く。この圧倒的なインプットがやがて着想を生み、発見へとつながる。「アングロサクソン流の経験主義に忠実な人間」ともいう。データやファクトを重んじる。このあたりもビジネスとの親和性を感じさせる。「私にとって思考することの本質は、とある現象と現象の間にある偶然の一致や関係性を見いだすこと」と語る。
こうした思考法はすぐに結果を出すのには向かないが、時代の転換点で新しいビジネスを考えたり、大きなブレークスルーを生み出したり、といったオリジナルなアイデアを考える思考には大いに参考になる。思えばコロナ禍の2020年には、『独学大全』をはじめ独学の手引きとなる本が注目された。腰を据えて学ぶのに適したステイホームの時代に、トッド氏の思考法も読者の関心を集めそうだ。
マンガ2巻で読める「三国志」も上位に
それではランキングを見ていこう。今回の本はビジネス書扱いではないため、店全体のランキングを取り上げる。
1位は工程管理コンサルタントが残業ゼロを実現する工程管理変革プログラムを説いた本。2位は、百田尚樹氏のミステリー小説だ。3位には、イトマン事件の真相を事件発覚の端緒を開いた新聞記者が当時の詳細な日記や取材メモをもとに語った本が入った。4位が今回紹介したトッド氏の本。5位には、新作の映画も公開されている「三国志」をコンパクトに2巻本のマンガにまとめた一冊が入った。
(水柿武志)