死と向き合うと生き方変わる 患者が教えてくれた学び
人生の景色が変わる本(20) 『もしも一年後、この世にいないとしたら。』

清水研著 文響社
著者はがん患者とその家族のメンタルケアに携わる精神科医。死と向き合った人が次第に変わっていく様を見守るなかで、彼はその姿と言葉から普遍的な学びを得た。
本書はそのエッセンスを柔らかな筆致で伝える。内容に派手なインパクトはないが、それでも読むほどじわじわ効いてくる説得力は、そこに切実な思いが込もっているからだろう。著者自身、患者たちのおかげで生き方が大きく変わったという。紹介される事例はすべてがん患者のものだが、いずれ死に直面するすべての人に響くはず。特に生きづらさに悩んでいる人におすすめ。行間から伝わる著者の優しさ、誠実さに癒やされる。
要点1 死を身近に感じると生き方が変わる
現代人が死を不吉なことと考え、いずれ直面するその現実から目をそらしがちなのは考えものだ。人生には期限があること、いつ健康が損なわれるか分からないことを、絶えず意識したい。死を身近に感じると、当たり前の境遇、当たり前の1日の貴重さを実感し、大切な今を無駄にしないで生きようと思うようになる。感謝の気持ちが湧いてきて、周囲の人との向き合い方も変わる。知らなかった自分の強さに気づく人もいる。1年後、自分が病床に伏しているとしたら……と想像してみるといい。今の自分を振り返って何を思うだろうか。うらやんだり、後悔したりはしないだろうか?
要点2 元気を取り戻すにはまずしっかり悲しむ
がん患者には、病気になる前よりもいきいきと生きている人が多い。当初は衝撃に打ちのめされても、やがてしなやかな柳のように心の活力を取り戻す。これは人間に、喪失を認め、悩みと向き合う力(レジリエンス)があるためだ。
レジリエンスを働かせるには、まずしっかりと悲しむ必要がある。心に蓋をしても悲しみや怒りはくすぶり続けるから、悩みを抱えているのなら無理に前向きになろうとしてはいけない。声を上げ涙を流して感情を解放することで、少しずつ現実に向き合えるようになる。今の苦しみをさまざまな視点から理解するうちに、こうするしかないという結論に近づける。