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距離感保ちつつ、本音で対話

1人の言動が残りの家族に影響を与えかねないというのは、別に放送業界に限った話ではない。たとえば、最近も米ナイキの北米地区副社長が辞任した。息子が転売ビジネスを展開し、スニーカーの購入に母親名義のクレジットカードを使っていたからだ。息子のビジネスが母親のキャリアを台無しにした格好で、コンプライアンスが厳しくなる中、「家族リスク」が小さくないことをうかがわせる。

昔は家族の一員の不始末が残りの家族のキャリアに響かないこともあったが、今は「さらし」と呼ばれるSNS(交流サイト)やネットメディアでの追及が家族にまで及びがちだ。決してよいことだとは思えないが、そういう現実がある以上、家族が互いを傷つけないような危機管理やリスクヘッジの必要性も現実味を帯びている。

親や祖父母の振る舞いから、家族が影響を受ける可能性もあると思えば、子供や孫が助言できる風通しのよさも望まれる。家族それぞれが独立した人格であるという大前提を踏まえたうえで、必要に応じて、アドバイスを送り合えるような家族付き合いは、家族全員が巻き込まれるような事態を避けることにつながる。たとえば、高齢者の自動車運転免許返納や医療・介護、資産管理などは話し合う意義が大きそうだ。

適切な助言を交わすうえでとても難しいのは、距離感の保ち方だ。「もう、十分に大人だから」という理由で、余計な口出しを避けようとするのは、一般的な態度だろう。当然、個々の自主性は尊重されるべきだ。しかし、道を踏み外しそうな状況にまで目をつぶるべきではない。同じことが親や祖父母にもいえる。

菅首相の件でいえば、長男が自力で就職するのなら、口出しする必要はないが、もし、口利きを頼まれたのであれば、安請け合いするものではないだろう。総務省幹部との会食を知ったら、ルールに沿った節度を求めてしかるべきだ。「大人だから」といった理由で、対話をサボるのは、本人のためにも、自分のためにもならない。

大人になった家族との対話はなかなか難しいところがあるが、補助線に使えるのは、「世の中」のまなざしだ。同調圧力になりがちな「空気」の読みすぎを遠ざけつつ、世間一般から非難されないような選択を意識すれば、家族内での甘えやおごりを避けやすくなる。法律や社内規則は世間一般のまなざしをベースにしていることが多いから、判断の根拠・手がかりになる。先輩や友人に相談するのも、世間知を家族問題に取り入れる方法だ。「家庭の問題」を自分だけで抱え込むリスクは避けたい。

仕事で養った「しゃべりテクニック」は家庭内でも役に立つ。無用に感情を刺激せず、筋道を立てて、家族の利益を実現するよう、話を進めていけば、「家族リスク」を薄めるだけでなく、互いを身近な助言者にできるというビッグボーナスまで手に入るだろう。

梶原しげる
 1950年生まれ。早稲田大学卒業後、文化放送のアナウンサーに。92年からフリー。司会業を中心に活躍中。東京成徳大学客員教授(心理学修士)。「日本語検定」審議委員。著書に「すべらない敬語」「まずは『ドジな話』をしなさい」など。

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