アート思考は問題提起 自分起点の常識外れが時代開く
第27回 アート思考

アートとデザインの違いは?
コロナ禍で大きな影響を受けた仕事のひとつにアート関係があります。私の知人にも、今なお食べるのに困っているアーティストがいます。
アーティストとよく似た職業にデザイナーがあります。こちらはコロナ禍のせいで生活が困窮したという話はあまり聞きません。なぜ、アーティストは食えなくてデザイナーは食えるのでしょうか。アートとデザイン、何が違うかご存じですか。
やっていることは変わりないように思うかもしれませんが、ある側面から見たら両者は似て非なるものです。アートは「自分事」、デザインは「他人事」を扱うからです。
アートの目的は「自己表現」です。自分の創作、すなわち思考や感情をカタチにして、世間に問いかけるのがアートです。極端に言えば、それを他人が理解や共感しようがしまいが関係ありません。自分がやりたいように表現するのがアートの本性だからです。
それに対してデザインの目的は「問題解決」です。他者や社会が抱えるさまざまな問題を、主に造形を通じて解決するのがデザインです。こちらは、理解や共感はもちろん、何かの役に立たないとデザインとして意味をなしません。
自分を起点にするアートと他人を出発点にするデザイン。アウトプットに違いが生まれてくるのは当然です。他人事という意味では、ビジネスと親和性が高いのはデザインです。デザイン思考(第26回)という具体的な方法もあります。
では、アートはビジネスに役立たないかと言えば、そんなことはありません。こんな時代だからこそアートは重要です。今回取り上げる「アート思考」でそれをご説明したいと思います。
アートが私たちの固定観念を打ち砕く
たとえば、優れた絵画や彫刻があるとしましょう。私たちがそれを見て感動するのは、単に美しいからではありません。「こんな美しさがあったのか!」とそこにあらたな美を発見するからです。
ではなぜそんな風に心を揺さぶられるかといえば、自分が当たり前と思っていた価値や意味を打ち砕かれるからです。つまり、アートの大きな役割は「問題提起」なのです。