コロナで増えるメンタル不調 つながりの大切さ再認識
産業医・精神科専門医 植田尚樹氏

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新型コロナウイルスの感染拡大で、2020年4月に1回目の緊急事態宣言が発令されてから、1年となります。私が産業医を務める会社でも在宅勤務が進んだことで、社員の皆さんと対面することも少なくなりました。
コロナ前は対面による健康相談が当たり前で、人事部や総務部からの連絡も頻繁にありました。それが今ではめっきり少なくなり、たまの連絡もオンラインで、意思疎通に不自由さを感じています。
連絡が少ないのは、会社と社員のやり取りの主流がオンラインとなったからではないかと考えています。
1年前までは出社するのが当たり前で、顔をつきあわせているためか、連携も緊密だったように思います。社員から上司に相談があれば、上司から人事担当へ、人事担当から産業医へと案件の伝達も迅速でした。これが滞るようになったと感じています。健康に問題を抱える社員の状態が悪化しないように、早い段階で相談に乗りたいのですが、後手にまわっているように思います。
相談の内容も変わってきました。コロナ前は頭痛や胃痛など内科的な症状についての相談も多かったのですが、今はメンタル面の相談がほとんどです。
内科的な問題はリモートワークの環境下ではなかなか相談しにくいのかもしれません。普段どおり出社しているのであれば、「腹痛なので今日は会社を休みます」と言うことも簡単でしょうが、在宅勤務では「腹痛なのでパソコンを開けません」とはなかなか言いづらいのではないでしょうか。
コミュニケーションの齟齬からメンタル不調
メンタル面での相談が増えている背景には、社員間のコミュニケーションの問題も大きいようです。
新入社員や異動で新しい職場に配置された人たちは、当然ながら新しい仕事の要領をつかむのに苦労します。オンラインともなれば、意思疎通もこれまでどおりとはいきません。
「分からないことがあれば気軽に聞いてください」と言われても、チャットやメールの文面だけでは、受け取り方次第できつく指導されているように感じることもあります。なかには「質問を繰り返すと、しつこくて怒られるのではないか」と心配して、萎縮する人もいました。職場内コミュニケーションの齟齬(そご)から、求められる結果を出せず、それが原因でメンタルのバランスを崩し、体調不良となった例もありました。