理科好き男子の楽園 駒場東邦は毎週実験で生徒鍛える
駒場東邦中学校・高等学校(上)
心臓、浮袋、胃、肝臓、腸、精巣・卵巣などを確認しながら、スケッチにまとめる。「心臓ってどれだ?」「これが胃かな?」と頭をひねりながらスケッチしている生徒に私はちょっと意地悪をした。
おおた 肺はどれ?
生徒 肺ですか? 肺はどれでしょうね。うーん、これかなぁ。わからないなぁ。プリントにも……肺は描かれてないですねぇ。え、どれだろう?
おおた 魚に肺があったら怖いでしょ!
生徒 あっ、そっか! やべー。俺、バカだ!
まわりの生徒が集まってきた。「何、何、どうしたの?」「いや、何でもない! もう、恥ずかしい!」。からかって悪かった。が、実は数人に試したところ、見事に全員引っかかった。山崎さんにこっそり報告すると、「それ、面白い! 私もやってみます(笑)」と喜んでもらえた。
魚に肺がないことなど、小学生でも知っている。しかしその知識に実感が伴わないことはよく起こる。笑い話のようであるが、決して彼らをバカにはできない。一歩引いてメタ的視点に立てば簡単に気づくことでも、視野が狭くなっているときには気づきにくいものなのだ。大人だってそういう状況に陥っていることはよくある。実地的にたくさんの失敗を経験し場数を踏んだ者はそういうときに直感が働くようになる。だから、たくさんの本物に触れる必要があるのだ。

スケッチを提出して終了
同じ時間、別の実験室では中2の同じクラスのもう半分の20人が、化学分野の実験を行っていた。酸化銅の粉末に煎餅の粉を混ぜたものを加熱して、単体の銅を取り出す実験だ。彼らは翌週、ワカサギの解剖をすることになっている。
ミドリムシで飛行機を飛ばそうとしているユーグレナの出雲充さんや、透明マントの技術を開発した東京大学先端科学技術研究センター教授の稲見昌彦さんらも、駒場東邦の実験室で育った。
創立は1957年。東邦大学の2つめの付属校としてつくられた。初代校長は菊地龍道。日比谷高校のカリスマ校長だった人物だ。1学年約240人。高校からの募集はない。2020年の東大合格者数は63人で全国7位。東大・京大・国公立大学医学部合格者数の直近5年間(2016~2020年)平均は89.4人で全国19位。卒業生には、ユーグレナ社長の出雲充氏、東京大学先端科学技術研究センター教授の稲見昌彦氏、脳科学者の苫米地英人氏、数学者の秋山仁氏などがいる。