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競技の練習を開始していいのは、これも「正式」には体育祭前週の金曜日からと決められている。毎日の放課後約90分間を使って分単位の練習スケジュールが組まれる。グラウンドは4色で平等に区分けする。各競技に対する戦術も練習内容も色ごとに異なる伝統がある。それが「作戦ノート」に記述されており、家宝のように代々受け継がれている。つまり駒場東邦には、明確に4つの異なる学校文化がある。

体育祭前日の金曜日は練習禁止。本番を前に1日体を休めることになっている。

かつてはときどき「抜け駆け」事件が起きた。「正式」な練習期間のほかに、近隣の公園での極秘練習が発覚したりしたのだ。そこで大けがをしても、生徒は「転んだ」と言い張る。現在学校として「抜け駆け」は厳しく禁止しているが、それほどまでに競技にかける熱い思いがほとばしるのが駒場東邦の体育祭なのである。むしろ、制約を設けるからこそ本番当日にエネルギーが爆発し、なおさらに盛り上がるのかもしれない。

勉強してないひとの言葉には説得力がない

「高3の学担にとっては、後輩を指導する難しさを学ぶ機会になります。安全を確保しながら勝利への動機付けを行い勝つための方法論を教え込むプロセスを経験します。ときには厳しい口調や態度で接します。でも最後には必ず『よく頑張った』という声をかけます。負けてしまったときには『勝たせてやれなくて申し訳ない』と頭を下げます。このリーダーシップが駒場東邦の伝統かもしれません」と言うのは生徒会担当教諭の小原広行さん。

小家一彦校長が教えてくれたエピソードが傑作だ。「やんちゃ坊主で有名だった生徒が高3になって中1の学担になりました。そうしたら、彼が『やっぱ勉強しなきゃだめなんですよ』と苦笑いしながら私に言うんです。『なんで?』と聞くと、『やっぱ、勉強してないひとの言葉は説得力ないわ』って。彼はそこから勉強に目覚めました(笑)」。

棒倒しから発展した独自競技「東邦連峰」(学校提供)

棒倒しから発展した独自競技「東邦連峰」(学校提供)

すべての競技が見せ場であるといわれるが、「あえてユニークな種目を挙げるとすれば東邦連峰」と小原さん。高校生全員が参加して、色ごとに長い竹竿(たけざお)を支え、その先に旗を立てるというもの。要するに棒倒しの逆である。棒倒しが危険すぎるということで、およそ30年前に考案された。体育祭競技はぜんぶで21種目。中1が女装をさせられる「ダンサーズ」という余興もある。「体育祭の幕が閉じたとき、伝統が次の世代に引き継がれます」と体育科教諭の高松慎さん。

「優勝を目指すからには相手を打ち負かさなければいけません。でもそのために何をしてもいいというわけではありません。これは彼らが社会に出ても肝に銘じておいてもらわなければならぬことです。色組も大事ですが、体育祭が終われば、それぞれのクラスの仲間として、あるいは部活の先輩・後輩としてさまざまなことを学び合う仲間に戻りますから遺恨を残してはいけません。駒場東邦の体育祭で本当の達成感を味わうためには、色を超えた駒場東邦生全体としての仲間意識(Friendship)、正々堂々と戦う姿勢(Fair Play)、そのうえでの闘志(Fighting Spirit)が必要です」(小原さん)

この3つの「F」が、高山政雄第2代校長のころから「駒東の3F精神」として語り継がれている。駒場東邦に入るということは、この「3F精神」を身につけに行くことにほかならない。

駒場東邦中学校・高等学校(東京都世田谷区)
創立は1957年。東邦大学の2つめの付属校としてつくられた。初代校長は菊地龍道。日比谷高校のカリスマ校長だった人物だ。1学年約240人。高校からの募集はない。2020年の東大合格者数は63人で全国7位。東大・京大・国公立大学医学部合格者数の直近5年間(2016~2020年)平均は89.4人で全国19位。卒業生には、ユーグレナ社長の出雲充氏、東京大学先端科学技術研究センター教授の稲見昌彦氏、脳科学者の苫米地英人氏、数学者の秋山仁氏などがいる。

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