変わりたい組織と、成長したいビジネスパーソンをガイドする

覚えやすい端的なイメージを自ら演出

自らをさらけ出す「自己開示」はコミュニケーションの背骨になる。不利益な情報も進んで提供する態度が距離を縮める。別段、露悪的にふるまう必要はない。意識したいのは「親しみやすい」と思ってもらえるような情報を取捨選択するところだ。「好きな食べ物」「休日の過ごし方」といった、その人らしさが表れやすい情報は、聞いた人が自分に当てはめてとらえやすい点で効果的といえる。

記憶に残りやすい表現を工夫しよう。他人に拡散してもらえそうな語り口ともいえる。やや意外な情報同士の組み合わせは記憶に残りやすい。たとえば、「ラーメンの食べ歩きが趣味だが、横浜の実家はそば屋さん」といった具合だ。ひとひねりした「ずれ」「食い違い」を盛り込むのがコツだ。「温泉目当ての旅行好きだが、移動手段はほとんどバス」といえば、単に「旅行好き」と述べるよりも、印象が強まる。

聞き手におもしろいと感じてもらえる要素は、すぐには思い浮かばないから、やはり事前のリストアップが欠かせない。趣味・特技をはじめ、失敗・うっかり体験、休日の行動、好きな食べ物、印象深い体験などのテーマを書き出して、それぞれに該当する事柄を思い出していこう。リストアップした項目を比較して、印象の強さをものさしに優劣をつけて「勝負ネタ」に絞り込もう。どうせ1分程度しかないのだから、あれもこれもと詰め込むのはよくない。自分版「すべらない話」を練り上げる手間を惜しんではいけない。

絞り込むにあたっては、聞き手が不快感を催しそうな話題を避ける必要もある。誰かを傷つけるおそれのある話題は真っ先に省こう。容姿や育ちなどの切り口はデリケートだから、たとえ自虐的であっても避けるにこしたことはない。同じような悩みを抱える人の存在に思いが及ぶように心がけたい。学歴や経済力を示す話は格差や縁遠さを印象づけがちだ。主な目的は「親しみやすさ」だという点を常に意識して、その目的にそぐわない要素はそぎ落とすのが得策だ。

職場でのうわさ話では、人柄を端的に表す言葉で情報が行き交いやすい。「今度の部長はどんな人なの?」「うーん、いばりんぼ」。こんな具合だ。当然、どの部長にも様々な側面があるはずだが、最もわかりやすい表現が選ばれてしまいやすい。そして、「いばりんぼ部長」のイメージが独り歩きしていく。こういう現象を避けるには、最初から自分のキャラクターを明示してしまう手がある。「楽観主義」「のんびり屋」「結果オーライ」などの言葉はソフトな人柄を伝える。他人に勝手なイメージを押しつけられてしまうぐらいなら、先んじてイメージをプロデュースするのも悪くない。

優秀さを強調しようと、自己PR調になるのは得策とはいえない。やたらプライドの高い人物にみえやすいからだ。新しい職場で気負う気持ちはわからないではないが、「自己PRは厳禁」と心がけて損はない。逆に、行きすぎた自己卑下も聞いていて気分がよくないものだ。本人は謙遜しているつもりなのかもしれないが、謙虚さを通り越すと、不快感を引き起こしかねない。基本的には「親しみやすいポジティブキャラクター」を軸に据えるのが賢い戦略だろう。

とかく自己紹介は「単なる儀式」と軽く扱われやすい。でも、実際にはその後の働きやすさや評価を左右しかねない。「たった1分だから」と雑に扱うのはもったいないだけではなく、リスクが高い。きっちり準備してセルフプロデュースにつなげる「戦略的自己紹介」をおすすめしたい。

梶原しげる
 1950年生まれ。早稲田大学卒業後、文化放送のアナウンサーに。92年からフリー。司会業を中心に活躍中。東京成徳大学客員教授(心理学修士)。「日本語検定」審議委員。著書に「すべらない敬語」「まずは『ドジな話』をしなさい」など。

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