英語独習の合理的な方法 認知科学者が説く納得の提案
紀伊国屋書店大手町ビル店

岩波新書の売れ筋を並べた平台に2列並べて展示する(紀伊国屋書店大手町ビル店)
ビジネス街の書店をめぐりながら、その時々のその街の売れ筋本をウオッチしていくシリーズ。今回は定点観測している紀伊国屋書店大手町ビル店に戻る。緊急事態宣言は解除されたものの、ビジネス街に立地するこの書店の来客数は、例年の6割。会社法関連など一定の需要がある専門書こそ年度末ということもあってよく売れているが、ビジネス書の新刊となると、入荷して並べてみても強い反応が返ってこない。そんな中、書店員が注目したのは、認知科学の研究者が合理的な英語学習法を提案し、その理由としくみを解説した新書だった。
カギとなる概念は「スキーマ」
その本は今井むつみ『英語独習法』(岩波新書)。「独習」のひと言で思わず手に取った人も多いかもしれない。「独習」はコロナ禍でにわかブームとなった「独学」につながるキーワードだからだ。2020年には『独学大全』がベストセラーになった。
著者の今井氏は言語と思考の関係、ことばの発達の研究、学びと教育の問題の3つをテーマに研究を続けてきた認知科学の研究者だ。その3つの関心が重なり合うところで日本語を母語とする者が英語を学習することをテーマにして本書を著した。認知科学の観点から「合理的な学習法の提案」と「その理由としくみを解説する」ことを主眼にした本書は、英語がなかなかうまくならない、英語がうまくなりたいのに挫折してしまうなどと感じている人々の関心にうまく刺さったようだ。20年12月の刊行ですでに5刷を数える。
カギとなる概念は「スキーマ」というものだ。「知識のシステム」ともいうべきもので、多くの場合、持っていることを意識することがない。外国人のヘンな日本語がすぐわかるのはこのスキーマのおかげだが、なぜヘンなのかはわからない。同様に英語にもスキーマがあり、日本語のスキーマとの間にはさまざまなずれがある。このずれが英語学習の困難さの正体なのだ。
「数えられるものは可算、数えられないものは不可算名詞に分類され、可算名詞で一つなら名詞の前にa、複数なら名詞の語尾に-sをつける。不可算名詞には何もつけない」。こんなシンプル極まる英語の可算・不可算文法も日本人が正しく運用するのは難しい。aとtheの運用も同様だ。このような誰もが経験する英語学習あるあるを紹介しながら、日本語と英語のスキーマのずれを論じていく。そこから英語のスキーマを日本人はどのように獲得すればいいのかを考察する。