宗教から科学掘り下げ 聖光学院が問う「正しさ」の先
聖光学院中学校・高等学校(上)
続けて、近代の幕開けとともに帰納法的近代科学の基礎をつくったといわれるフランシス・ベーコンを引く。「偶像」という言葉が近代科学のなかにも登場するというのだ。
「ベーコンは『イドラを排除してものを考えるべきだ』と訴えました。つまり自分に都合のいい像を退け正しさを求めることが科学の本質的態度だというのです。くしくも偶像崇拝禁止の考え方と似ていますよね。『サイエンス』という言葉からは『実験』や『データ』が連想されがちですが、たとえば、都合のいいデータを恣意的に抽出したら科学的でありませんし、都合のいいデータを得るための実験も科学的ではありません」
自分では気づけない視点に引っ張り出すのが学校
さらにはプラトンの「洞窟の比喩」を引く。生まれてからずっと洞窟の壁を向いたまま育てられ、そこに映る薄暗い影だけを見て生きてきた人間には、太陽の光を浴びることは最初苦痛でしかない。ここでの太陽の光とは真実の光のメタファーである。しかし目が慣れて、ひとたび真実の光を受け入れることができると、いままで知らなかった事実を実感できるようになる。光を知った者は再び洞窟に戻り、まだ光を知らずそれを否定する者を洞窟の外に導かなければならない。が、洞窟の影に親しんだものにその声は届きにくいという話である。
「この洞窟の比喩って面白くて、自分では自分が影を見ているかそうでないかに気づけないんですよ。だから誰かが引っ張っていってあげなきゃいけない。それが学校の役割になればいいなと思うんですよね。とはいえ理科の先生がそこまで遡って論じるって、なかなか時間的に難しいと思います。ですからそこは私の授業でできたらいいなと思っています。もちろん常に気をつけているのは自分が偶像崇拝者になっていないかということです」
このような視点から、平松さんの授業では、宗教と科学が交わっていく。「データサイエンス」や「エビデンス」という言葉が水戸黄門の印籠のように使われる時代を生きる知恵を授ける教育として、意義深い。私は、時間を忘れて平松さんのぼくとつとした語りに聞き入ってしまった。
創立は1958年。カトリックのキリスト教教育修士会が設立した。1学年約225人の完全中高一貫校。2020年の大学合格者数は東大62人、国公立大医学部37人。米ハーバード大や米エール大などの海外大学にも合格者が出ている。東大、京大、国公立大医学部の合格者数の直近5年間(16~20年)平均は105.8人で全国14位。卒業生にはシンガーソングライターの小田和正氏、宇宙飛行士の大西卓哉氏、オイシックス社長の高島宏平氏などがいる。