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探究学習に対する食いつきが悪い原因は何か。

「正解がない環境に慣れていないということでしょうね。前回私もしびれをきらして、カンディンスキーの抽象画を見せました。解釈の幅がものすごく広いアートです。イノベーション(革新)が求められる時代には、何もないところに自ら意味を見いだしていく力が必要だという話をしました。でもそこに対する抵抗感が強いんです」

白黒はっきりするものを好む生徒たち

名塩さんは数学の教員である。名塩さんのなかでは数学の世界とアートの世界はつながっているが、生徒たちから見た数学は、正解と不正解の違いがはっきりしているものであり、テストで1つでも多くの正解を得るために取り組むものに見えてしまっているらしい。聖光学院の生徒に限らない話だろう。

中3の半分が一堂に会す

中3の半分が一堂に会す

「普通の数学の授業より探究の授業のほうが盛り上がる学校もたくさんあるようです。でもうちの生徒の場合、なまじっかテストができちゃうので、それ以外の価値観を認めたくないみたいなところがあります。いわゆる『主要教科』をやらなきゃいけないみたいな義務感が強い」

数学科の名塩さんが、数学に取り組むのと同じかそれ以上の問題意識と熱量で授業をしていても、それが受験に不必要な科目になったとたん、優先順位のヒエラルキーの最下層に置かれてしまうという嘆きだ。いわゆる「副教科」の教員たちがずーっと感じてきたことでもある。

「最近では新書や文庫を読みあさって自分の考えを語るような生徒が減りました。そういうタイプの生徒ほど、低学年のうちはさほどの成績でなかったとしても最後にはぐーっと伸びて、テスト勉強ばかりしていた生徒たちを追い抜き、東大に楽々と入っていくんですけどね。とにかく情報があふれていることと、テストに追われていることが主な原因だと思います」

「これからの社会を生きるには、あれも大事だ、これも大事だ」と言われ、やるべきことがどんどん増えていくばかりでは、子どもたちがやる気を失うのも無理がない。大人のほうが、もっとシステム思考で現実を見て、子どもたちの感情に寄り添う必要があるかもしれない。

聖光学院中学校・高等学校(横浜市)
創立は1958年。カトリックのキリスト教教育修士会が設立した。1学年約225人の完全中高一貫校。2020年の大学合格者数は東大62人、国公立大医学部37人。米ハーバード大や米エール大などの海外大学にも合格者が出ている。東大、京大、国公立大医学部の合格者数の直近5年間(16~20年)平均は105.8人で全国14位。卒業生にはシンガーソングライターの小田和正氏、宇宙飛行士の大西卓哉氏、オイシックス社長の高島宏平氏などがいる。

(上)宗教から科学掘り下げ 聖光学院が問う「正しさ」の先

(下)塾に行かない聖光学院生 勉強・部活に次ぐ第3の活動

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