「失敗しに行く」のも大事 修羅場体験がキャリア磨く
日経転職版 特別セミナー
――50歳代の男性からの質問です。未経験の分野でキャリア形成を考えていますが、今からでも可能でしょうか。
伊藤:可能でしょうが、諸条件はあるでしょう。諸条件を40歳代まで鍛えているのであれば、そこで得たスキルを転用して、「それいいね」と思ってもらえるならOKですよね。そこをどうデザインするか。私もヤフーに転職したのは48歳のとき。教育を手がけたことはありませんでしたが、物流やマーケティング、新規事業や経営に携わった経験があるのできっと大丈夫、と諸条件が整っていました。どうデザインして、採用する側に「いいね」といってもらえるかでしょう。
源田:こうした質問を寄せてこられるほど「まだ悩ましい」と思っているのなら、自分の中に答えがあるはずです。十何年と人材開発をやってきた経験から言うと、自分のやりたい仕事を実現して、いきいき楽しく働くことが成功とするなら、その先天的な条件は好奇心と粘り強さだと思います。未経験の分野でキャリア形成したいと思うくらい好奇心が強いのなら飛び込むべきでしょう。家庭などの条件から「難しい」と悩んでいるのなら、それに従うべきです。社会人の成長はとにかく経験です。いかに修羅場的な経験を重ねるかが大事。自分の本当にやりたいことを目指していくのなら、個人的には挑戦すべきだと思います。
伊藤:挑戦の仕方もいろいろ可能性が増えてきています。転職を選ばなくても、貢献できるフィールドができてきました。また、かつては「36歳転職限界説」などといわれましたが、人生100年時代を迎え、いまや転職に年齢は関係ありません。自分なりの飛び込み方をつくれると思います。

伊藤羊一氏 Zホールディングス Zアカデミア学長 / ヤフー コーポレートエバンジェリスト Yahoo!アカデミア学長 / 武蔵野大アントレプレナーシップ学部学部長 / ウェイウェイ代表取締役 / グロービス経営大学院客員教授。日本興業銀行(現みずほ銀行)、プラスを経て2015年ヤフー入社。現在Zアカデミア学長としてZホールディングス全体の次世代リーダー開発を行う。21年4月武蔵野大アントレプレナーシップ学部(武蔵野EMC)学部長。主な著書に「1分で話せ」など。
源田:未経験の分野でも経験がいかせるものがなにかあるかどうかが大切です。私はもともと営業職で、営業担当者の育成の仕事に携わりました。すると、会社全体の人材育成の担当をしろといわれ、さらに12年ほど前、(孫正義氏が後継者育成のために立ち上げた組織)ソフトバンクアカデミア構想のメンバーとなりました。孫さんの後継者を探すことがミッションだったので、起業家やベンチャーキャピタル(VC)などを半年で100社ほど訪問しました。そこでの出会いや外部とのネットワークが、社内起業制度「ソフトバンクイノベンチャー」や異能の若手を支援する「孫正義育英財団」につながっていきました。つまりすべてアドオンです。仕事をしていく中で、いろいろな人との出会いの中で、いろいろな課題に気づき、なんとかしたいと思ったときに、それまで築いた関係を通じて取り組むことができました。未経験の分野でも、これまでの特技や経験、関係を生かせるのであれば、挑戦できるはずです。
――20歳代からの質問です。キャリア形成を考える上でのポイントを教えてください
伊藤:とにかくいろいろなことを経験する、それに尽きます。何よりも大切なのは、いろんな経験を繰り返すことで、それがスキルやマインドにつながりキャリアとなります。どれだけ経験のドットをためられるか、そしてその点と点をつなげられるか。最初の就職先なんてどうでもいいと思います。
源田:とにかく修羅場経験だと思います。わたしは30歳代前半に人事部門へ異動して、とても頭のいい人たちと出会ったのですが、強く残念に思ったのが、頭のいい人は失敗が見えるからか、あまりチャレンジしないということでした。失敗も含め、経験から何を学ぶかが成長だと思うので、非常にもったいないと感じました。
会社選びで伸びている会社、いろいろとチャレンジできる会社を選ぶのは「あり」だと思います。こだわりを捨てて、多種多様な経験ができるかどうか。ひどくハードな成功確率の低い経験をどう積むかを考えることが大切だと思います。
伊藤:経営共創基盤の冨山和彦グループ会長は「とにかく若いうちは失敗しに行け。その姿をみんな見ているから無駄にはならない」と言っていました。「経験値を上げるために失敗しに行く」くらいなところが大事です。小利口になってはいけません。ビジネススクールで教えていると「失敗しないために学ぶ」という若手がいますが、「そうではない。チャレンジしやすくなるために学べ」と言っています。失敗したらむしろ学べるのです。失敗を恐れてはいけません。
源田:20歳代で任される仕事での大きな失敗のほとんどは会社からするとたいしたことではありません。チャレンジした者勝ちです。