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「私は」で発言の責任を引き受ける

一方、感染拡大を防ぐ前線を仕切る立場の知事は首相と違って、判断や決定の責任を自ら引き受けるような言葉選びに努めている。たとえば、小池都知事は「ゴールデンウイーク中の旅行も、すいません。延期してください」と述べた。都民に旅行自粛を求めるのは自治体としての都だが、自らの言葉として発言し、頭を下げるアクションも添えた。

キャスター経験者だけに声の出し方もうまい。言葉を区切ってめりはりを出した。原稿にあるはずのない「すいません」を挟んで、知事個人の気持ちを織り込んだ。「協力をお願いする」という、都の立場を、声にも言葉にもにじませた。

はっきり「私は」と宣言しなくても、このようにその人の存在を印象付ける一言を添えるだけでも、主語的なニュアンスを生み出せる。個人的な気持ちを乗せられる点でも、まねしたくなる小技だ。表情としぐさの立体感も説得力を高めている。

緊急事態宣言の必要性を訴えた、大阪府の吉村洋文知事も「自分主語」をはっきり押し出している。4月14日の記者会見ではこう述べた。

「僕は時短を広げるとかいうレベルではなくて、これは緊急事態宣言をやるべきだと思います。で、それは、中身については、より強い内容の緊急事態宣言をやる必要があると思ってます」

最初に「僕は」と、主語を明示した。この主語を受ける述語動詞には「思います」「思ってます」を用意して、自らの意見・主張だという点を強調。メッセージの責任を引き受けた。

両知事の発言のすべてがそうだというわけではないが、多くの発言で主体的な物言いを選ぼうとしているようにみえる。こうした発言スタイルは政治家に限らない。意見を求められる学識経験者も割とはっきり意見を述べる。

たとえば、政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長は重点措置の適用に関して「重点措置というのは、細かく見ていきますから、そういうところで、ほかの都道府県の中にそういう地域があれば、私はちゅうちょなく重点措置を適用すべきだと思います」と述べた。

「適用すべきだと思います」という明確な結論を、識者の代表的な立場として示している。責任感を帯びたこうした発言もリーダーらしい言動といえるだろう。

毎度、「私は」と主語を提示するには及ばない。だが、議論の流れを引き寄せる際には、「これが私の意見だ」というムードを帯びた「私は」が生きる。そして、結びには「と思います」「提案します」に類した述語でしっかり主張を締めくくろう。結びのフレーズが強度を備えていないと、せっかくの持論までだらしなく聞こえてしまう。

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