三菱商事の新人教育 SDGs本でビジネス構想力を磨く

三菱商事人事部人材開発チームリーダーの森和美さん
就職人気ランキングで例年上位に入る三菱商事。同社が2021年度入社の新人研修で使ったのは、『SDGsビジネス戦略 企業と社会が共発展を遂げるための指南書』だ。研修では同書の共著者であるピーター・D・ピーダーセン氏が自らポイントを解説し、SDGs(持続可能な開発目標)に関連する事業で働く同社社員との対談を実施。さらに新入社員らが新規事業を構想するワークショップも行った。今年初めての取り組みだ。
「SDGs」はビジネスパーソンの共通言語
人材要件として「変化への対応力」を重視する三菱商事では、これまで中国語などの語学やDX(デジタルトランスフォーメーション)時代を見据えてプログラミング言語のPython(パイソン)などを学ぶ機会を提供してきたが、人事部人材開発チームリーダーの森和美さんは、「SDGsもいまやビジネスパーソンに必須の素養であり、共通言語」と語る。
「商材を持たない商社にとって唯一の財産は人。私たちの仕事は、常に時代の変化を捉えて顧客や社会の課題を解決することです。その意味で、持続可能な社会への転換はまさに、世界が直面している課題です。特に気候変動は、エネルギーを扱う商社にとってはリスクであると同時に、大きなビジネスチャンスにもなりうる分野。新人の時代からそうした意識を高めてもらいたいと考え、書籍もその視点で選びました」(森さん)

三菱商事の新人研修で講義をするピーダーセン氏
『SDGsビジネス戦略』の共著者、ピーダーセン氏はデンマーク生まれで、高校時代に留学で初来日。日本在住は約30年に及ぶ。2000年には環境と企業の社会的責任(CSR)に特化したコンサルティング会社を創業。大手企業のサステナビリティ戦略を支援し、地球環境や健康を重視するライフスタイルを表すLOHAS(ロハス)などの新しい価値観を日本に紹介した人物として知られる。

編著:ピーター・D・ピーダーセン、竹林征雄
出版:日刊工業新聞社
企業がビジネスとしてSDGsに取り組むために具体的にどうすればいいか、実際の企業事例のケーススタディーも含めて、目標設定の仕方や事業戦略への落とし込み方などを解説している。
同氏はこの本の中で「トレードオン」という概念を提示している。従来ビジネスにおいては、企業が利益を生むためには、環境や社会に負荷をかけるのはある程度致し方ないといった「トレードオフ」の考え方が主流だった。しかしこれからの企業は、利益を追求しつつ環境・社会の価値も同時に向上させてなくてはならない。それが「トレードオン」の考え方だ。同氏は、トレードオンを単なるCSRとして捉えるのではなく、経営戦略の軸、イノベーションのドライバーとして位置付けるべきだと強調している。