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コロナ禍以降、地方で人材ニーズの幅が拡大

では、地方企業では、具体的にどんな業務・役割を担う人材が求められているのでしょうか。コロナ禍が深刻化する前――2020年2月にも、首都圏の人材が地方企業に就業しているケースを紹介しました(「首都圏から遠隔ワークでOK 地方が招く転職人材とは」)。

このときに挙げたのは、次のような人材ニーズです。

・事業拡大・海外展開を図る優良企業が戦略策定、推進できる人を求める

・事業承継にあたり、「次世代経営陣」を求める

・新規株式公開(IPO)を目指し、組織体制を整備する人材を求める

実際に転職が成立した事例としては、ミドル層以上が目立ち、「移住」ではなく、自宅を首都圏に残したまま「出張」「単身赴任」を選ぶスタイルが多く見られました。

このような人材ニーズについては、今も傾向は変わっていません。地方の上場企業が、首都圏人材を社外取締役として招聘するケースも引き続き見られます。

加えて、コロナ禍の1年の間に、状況が大きく動きました。地方企業でも事業活動やサービスのデジタル化が加速。これまでリアル店舗の運営のみを行っていた企業が電子商取引(EC)サイトの運営に乗り出したり、地元客のみに販売していた商品を全国へ展開するためにWebマーケティングを強化したりと、新たなチャレンジをする企業が増えています。これに伴い、IT(情報技術)・ウェブ系のマーケティングや企画、ECサイトの実装などができる人材のニーズも高まっています。

自治体主導で、地域全体のデジタル化の推進を打ち出す事例もあります。

例えば、山形県が2020年から取り組み始め、21年3月にまとめ上げたのが「Yamagata 幸せデジタル化構想」。「県・市町村」「暮らし」「仕事」「余暇」の4分野でのデジタルトランスフォーメーション(DX)を打ち出しています。山形県ではDX促進に際し、県内外のフリーランス人材・副業人材の活躍に期待を寄せています。

コロナ禍でテレワークが浸透し、地方企業と働く人の双方が「オンラインコミュニケーション」に慣れたことから、リモートでの副業にも抵抗感がなくなりました。こうした状況から、20代~30代のビジネスパーソンが、テレワークによる「ふるさと副業」に踏み出すケースが増えているのです。

経験が浅い分野の副業でスキルを磨くチャンス

ふるさと副業を行うビジネスパーソンの動機として多いのは、「地域に貢献したい」という気持ちです。「生まれ育った地域の活性化を支援し、役に立ちたい」「旅行で訪れて好きになった地域だから応援したい」といった思いを抱いている人が多いようです。一方で、「地域にこだわりはなく、副業先を探していたら、希望条件に合うのが地方企業だった」という人もいます。

私は、「ふるさと副業」を行うメリットは、「地域に貢献できる喜び」以外にもあると考えています。副業の目的が「本業ではできない経験を積む」「新たなスキルを磨く」である場合、大都市圏で副業するよりも地方のほうが就業のハードルが低いからです。

「○○の経験は浅いけれど(独学で勉強した程度のレベルだけど)、副業で経験を積んで、ブラッシュアップしたい」と思った場合、その分野の経験者が多数いる首都圏ではなかなかチャンスを得られないかもしれません。しかし、地方企業であれば、人材の確保が難しく、まだ浅い知識や経験であっても重宝される可能性があります。そのように、「相手企業の役に立てる」かつ「自分のスキルを磨ける」副業先を地方に求めるのも、キャリア開発の一手段として有効なのではないでしょうか。

自身の経験値を高めつつ、その企業の発展に貢献し、「第二の故郷」と言える場所ができる――。「ふるさと副業」は取り組み方次第で、多くのものを得られると思います。「ふるさと納税」の先の具体的な貢献として今後、さらに注目されていくと感じます。

※「次世代リーダーの転職学」は金曜掲載です。この連載は3人が交代で執筆します。

森本千賀子
morich代表取締役兼All Rounder Agent。リクルートグループで25年近くにわたりエグゼクティブ層中心の転職エージェントとして活躍。2012年、NHK「プロフェッショナル~仕事の流儀~」に出演。最新刊「マンガでわかる 成功する転職」(池田書店)、「トップコンサルタントが教える 無敵の転職」(新星出版社)ほか、著書多数。

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