スキル重視に落とし穴 ジョブ型雇用の専門性とは
20代から考える出世戦略(109)

ジョブは専門性で決まると考えがちだが……(イラストはイメージ=PIXTA)
ジョブ型雇用が広がっていくと、自分のキャリアを自分で考えることが当然になります。そのために自分ができる職務(ジョブ)はこれだ、とはっきり示せるようにならなくてはいけません。おりしも、専門外職務への配置転換を無効とする高裁判決が確定しました。ただ、職務とは専門性によって決まる、と考えてしまうと、ちょっと困ったことになるかもしれません。
今、人事事情が変わりつつある
2021年の1月に出された裁判の判決に対して、一部の人事専門家たちが驚いています。
5月5日の日本経済新聞の記事で示された内容によれば「運送会社で運行管理などを任されていた社員に倉庫勤務を命じた人事異動を無効とする司法判断」が名古屋高裁で示されました。そして会社側が上告を見送ったため判決が確定した、とのことです。
名古屋高裁からは「能力や経験を生かせない業務に漫然と配転した。権利の乱用に当たる」という言及がされているとのことですが、簡単に言いかえれば「本人の専門性を生かす仕事をさせるのが会社として当然」というものになるでしょうか。
ここから解釈を拡大して「未経験の仕事に異動させてはいけない」という考え方を説く人も出てきそうです。
しかしその解釈が広まることになれば、多くの企業経営者は頭を抱えることになります。
なぜなら多くの日本企業では、従業員を定年まで雇う代わりに、会社都合で異動させられる権利を持っていると考えてきたからです。
そもそも会社都合での異動には、従業員をゼネラリストとして育成するというキャリアニーズもありました。長い会社人生の中で、社内の様々な職務を経験してもらい、「総合」職として活躍できる人材になってもらうことは、会社としても個人としても有意義なものだったからです。そのような雇用と活躍のあり方を持って、メンバーシップ型という定義をする場合もありました。
しかし名古屋高裁の判決に従うとすれば、未経験の仕事にはつけられなくなります。その結果、「総合」職が育ちづらくなってきますが、それは会社と個人、それぞれにどんな影響を与えるのでしょう。