変わりたい組織と、成長したいビジネスパーソンをガイドする

――ATMとは覚えやすくていいですね。

「これは私のオリジナルではなく、日本IBMの元会長で経済同友会代表幹事なども歴任された北城恪太郎さんがある勉強会でおっしゃったのです。『今日話した難しいことは全部忘れていいけれども、ATMだけは覚えて帰ってほしい。私が長いビジネス経験の中でたどり着いた境地だから』と。私自身の経験ともぴったり重なったので、テルモ社内ではスローガンのように言い続けています」

「特に160を超える国・地域で事業展開し、外国人が従業員の8割を占める当社は分かりやすい言葉でなければ浸透しません。その点、ATMは極めてシンプルで世界に通用します。今やどこの国の支社や工場でも『アカルク、タノシク、マエムキニ』は合言葉です。特にコスタリカなどラテン系の国では、自分たちの専売特許だと言わんばかりに皆ノリノリで唱和しています。私がATMを提唱しているなんて、以前の職場の同僚たちには信じられないでしょうね」

コンサル時代にエンロン事件に遭遇

――コンサル時代には米エネルギー企業のエンロンの不正会計事件にも遭遇しました。

「エンロンと言っても今の若い世代は知らないかもしれませんが、2001年当時、飛ぶ鳥を落とす勢いだった会社です。しかし、巨額の不正会計疑惑が発覚し、わずか数カ月で経営破綻しました。会計監査をしていた米アーサー・アンダーセンも不正に関わったとして解散に追い込まれ、日本の提携先だった私の勤務先も激震に襲われました。そこで再び転職を考えざるを得なくなりました」

「当時はなんてついていないんだと恨めしかったですが、今にして思えば、望んでもできない貴重な体験でした。どんなに時流に乗っている企業や、歴史を持つ巨大組織であっても、たった1度の過ちでブランドごとなくなってしまう。それを目の当たりにして、職業倫理や内部統制の重要性が身に染みました。ビジネスが発展すればするほど、ビジネスの論理と職業倫理が対立する場面が増えます。この問題は本当に『言うは易く行うは難し』ですが、倫理は決してお題目であってはならないのです」

毎年開くグローバルリーダーシップミーティングでは佐藤氏(右から4人目)の社長就任以降、そろいの法被を着るのが恒例になった

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「当社の場合、医療という命に関わる分野だけに、組織の末端まで高い倫理観が求められます。患者さんの命と医療現場の安全が最優先だというのが、全ての判断のベース、全ての従業員の行動規範になります。リーダーはあらゆる機会を捉え、この倫理こそが会社のよって立つところなのだと言い続けなくてはなりません」

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