前職での挫折 北城氏の心構え「ATM」に気づく
テルモ 佐藤慎次郎社長(上)
――リーダーとして最もうれしかったことは何ですか。
「当社では世界の地域・事業の幹部が集まるグローバルリーダーシップミーティングを年1回開催していますが、私が社長になって初めて実施した17年の会が印象に残っています。一部のメンバーからマンネリ化しているという声を聞いていたので、皆の気持ちをグッとつかむため、開催場所は外国人にサプライズとなる金沢にしようと決め、誰もが楽しめるアクティビティーや老舗料亭でのおもてなしに力を注ぎました」
そろいの法被で「ワンテルモ」演出
「さらに、恒例だった事業報告をやめ、世界中の社員をつなぐ共通の価値観であるコアバリューズについて頭を突き合わせて議論しました。最終日には参加者一人一人の名前を縫い込んだ法被をプレゼントし、『いつもは地域や事業ごとに違うユニホームを着ているけれども、我々はきょうワンテルモとして同じユニホームを着ている。この感覚を絶対に忘れないで』と訴えました。サッカーでも普段は自分が所属するクラブチームのユニホームを着ているけれど、4年に1度のワールドカップ(W杯)ではナショナルチームのユニホームで戦いますよねという例え話もしました」

経営者の著作を愛読し、特に米ゼネラル・エレクトリック(GE)の元最高経営責任者(CEO)であるジャック・ウェルチ氏の本は繰り返し読んだ。「主張の全てに同意はしないが、あそこまで明快なメッセージを発信し続けたのは本当にすごい」と語る
「その会が終了した時、長年勤めているメンバーが口々に『エポックメーキング(画期的)なイベントだった。テルモは確かに変わった。あなたがやろうとしていることが分かった』と言ってくれました。海外の人は正直ですから、うれしかったですね。この経験はその後、組織運営をしていく上でも大きな自信になりました」
(聞き手はライター 石臥薫子)
1960年東京都生まれ。東京大学卒業後、東亜燃料工業(現ENEOSホールディングス)入社。99年朝日アーサーアンダーセン(現PwCジャパングループ)に転じ、2004年テルモ入社。17年から現職。