160カ国・地域を束ねる経営 勇気と共感力が下支え
テルモ 佐藤慎次郎社長(下)

テルモ社長 佐藤慎次郎氏
医療機器大手のテルモは現在、160を超える国・地域で事業を展開している。売上高の7割を海外で稼ぎ、従業員の8割が外国人というグローバル企業だ。2017年から同社を率いる佐藤慎次郎社長は多様性に富む職場でいかに使命感を持って働いてもらうかに心を砕いてきた。大切にしてきたのは現場で一緒に考える姿勢と、一人一人が抱える感情に思いを致す共感力だ。
外国人に「あうんの呼吸」通用せず
――グローバル企業のマネジメントで心がけてきたことは何ですか。
「日本人同士だと、あえて言わなくても相手は分かってくれるはずだと甘えてしまうところがありますよね。でも、海外の人に『あうんの呼吸』は通用しません。それどころか全く逆で、『はじめに言葉ありき』です。バックグラウンドが違うのですから、全て言語化しなければ伝わりません」
「当社の工場はコスタリカやインド、ベトナムなど世界各地にあります。医療現場にさまざまな器具を運び込む人たちがいます。新型コロナウイルス禍で医療を止めてはならないし、現場に行く人には感染リスクもある。そういう厳しい環境下で、多様な人々をつなぐのが『自分たちは何のためにこの会社で働いているのか』という共通の理念や価値観です。それらを普段から言葉にして、共有しておくことが必要です」
「コロナ禍でリモートワークが進み、対面のコミュニケーションが減っています。日本でも転職が活発になり、人材の回転率も高くなっていますから、今後はますます『あうんの呼吸』は通じにくくなるでしょう。リーダーにはこれまで以上に言葉やコンセプトを提示し、丁寧なプロセスで浸透させていく力が求められていくでしょう」
――多様性に富む職場のコミュニケーションには工夫が必要です。
「日本人に対しては杓子(しゃくし)定規ではなく、カジュアルなコミュニケーションの機会を持つようにしています。用件だけ話して聞いて、はい終わりではなく、できるだけ雑談すること。海外の人とは基本は英語なので、私にも苦手意識はありますが、何とか頑張って対話の機会を持つようにしています。1時間も英語で面談するなんて正直しんどいし、疲れますが、彼らのモチベーションを引き出すにはやはり言葉が必要です」
「もう一つ大事なのは一緒に何かに取り組む姿勢です。数年前、米国の事業が深刻な課題に直面した時、私は現地に飛んで1週間くらいメンバーと膝詰めで解決策を模索したことがあります。ホワイトボードに課題を書き出したり、こんがらがっている問題を図解で整理したりしながら、答えを導き出していったんです。その結果、『この人は一緒に考えてくれた』と認識してもらえ、メンバーとの関係性が一段と深まりました。相手が悩んだり、行き詰まったりしているときこそ、リーダーは自ら動き、一緒に考えることが大事だと思います」