ビジネスの決定的変化、DXから考察 元経産官僚の視点
八重洲ブックセンター本店
デジタル化の持つ抽象化の破壊力とは
著者はまず抽象化の破壊力に言及する。デジタル化の始原を19世紀前半の英国にまでさかのぼり、「まずは抽象化してみてなんでも一気に片付けられないか考えてみる」「そのあとで具体化する」という発想がデジタル化の基礎にあるという。目の前の課題をすぐ具体化し、細かいことに入り込んでしまうのが日本産業に染みついたロジックで、この彼我の差で一気に周回遅れになってしまっているのが日本の現状だと指摘する。
この原点からデジタル化の本質を眺めていくと、デジタル化は「ゼロイチで表現できる計算というコンピュータがもともと処理できることと、人間が解いて欲しい実課題との距離を埋めることを目指した発展過程」だとわかる。こうした基本認識を示した後でデジタル化の白地図を描いてみせ、その白地図に「あなたのビジネス、あなたの会社自体を書き込み」、そのことを通じて地図自体を書き換えよと呼びかける。書き換えることができるならDXの成功は見えてくるという。
かなり抽象的な議論が展開するが、アリババのビジネスモデルやネットフリックスのDXなど、具体的な事例も手ごろに差し挟まれる。ドイツのインダストリー4.0など実際に動いている構想なども解説しながら事の本質に分け入っていくので、会社のDXと本気で格闘しているビジネスパーソンには示唆に富む著作だろう。「息の長い売れ筋が上位を占める中で、店頭で大きく売れて1位になった一冊」と同店でビジネス書を担当する川原敏治さんは話す。
『2030年』が息の長い売れ筋に
それでは先週のランキングを見ていこう。
今回紹介した『DXの思考法』が1位だ。2位は1月に「2030年と2040年 日米2つの予測本が指し示す未来とは」の記事で紹介した、テクノロジーの進化を軸に包括的な未来トレンドを描き出した予測本。息の長い売れ筋になってきた。3位は新社会人向けに売れ続けているロングセラーだ。4位の本は、PR会社サニーサイドアップの創業者が営業の極意を語る。5位には、米コロンビア大学で学び、国際ビジネスでキャリアを積んだ後、リベラルアーツの研究者となった著者がプラトンやアリストテレスを学ぶ意味や西洋的教養の意義を説いた本が入った。
(水柿武志)