ベインが考えるコンサルの価値 「イシュー」の見極め
社会人1年目の課題図書(3)
大原さんが推薦図書の中でもう一冊、バイブルとして挙げるのは『考える技術・書く技術 ――問題解決力を伸ばすピラミッド原則』(ダイヤモンド社)だ。マッキンゼー社初の女性コンサルタント、バーバラ・ミントの著書で、初版(日本語訳)は1999年。20年以上も前の本だが「世界中で読まれている、いわばコンサルの共通言語。語り口は多少古いが、内容は全く古くない」という。

「年に一度は読み返す」と語る大原さん。
大原さんは、一つのプロジェクトが終わる度に、「次に似たような課題に取り組む場合、半分の時間で倍の成果が出せるか」を自らに問う。そんなとき、2冊のバイブルが役に立つという。ページをめくるうちに、プロジェクトでの学びが整理され、それまで考えつかなかった論点やショートカットがひらめくこともある。
プロジェクトの進め方に変化
ところで、長らくコンサルタントに必須の能力は「論理的思考」と言われてきたが、2010年代以降、「デザイン思考」や「アート思考」が注目され、コンサルティングファームがデザインファームを買収するケースも出てきている。コンサルタントに求められる要件や人材育成にも変化はあるのだろうか。
「プロジェクトの進め方自体が、きっちり作り込んだ工程表通りに進める『ウォーターフォール型』から、小さな塊ごとにプロトタイプを作って試行錯誤を繰り返していく『アジャイル型』に変わっています。その意味で、思考の柔軟性が求められるようになっています」
最近の学生を見ていると、「目標やビジョンがしっかりしていて非常に優秀だが、逆算思考になりすぎている印象もある」という。プロジェクトも人生も、トラブルや予期せぬことが起き、状況は常に変わる。だからこそ、イシューは何なのか、常に自問自答することが必要なのかもしれない。
プロジェクトの進め方は変わっても、求める人材要件の基本は変わらない。それは「分析できる人ではなく、クライアントの本当の課題は何かを考え抜き、それを解くことにパッションを燃やせる人」。人材育成においても課題設定力の向上は重要なテーマだ。
「ワークライフバランスにも配慮しながらスキルアップをはかり、サステナブルにキャリアを積み上げるためにも、カギとなるのは課題設定力なのです」
『イシューからはじめよ』にはこんな一節がある。
「(バリューのある仕事をするには)『イシュー度』の高い問題を絞り込み、時間を浮かせることが不可欠なのだ。『あれもこれも』とがむしゃらにやっても成功はできない。死ぬ気で働いても仕事ができるようにはならないのだ。『とりあえず死ぬまで働いてからものを言え』といった思想は、この『イシューからはじめる』世界では不要であり害悪だ。意味のない仕事を断ち切ることこそが大切なのだ。うさぎ跳びを繰り返してもイチロー選手にはなれない。『正しい問題』に集中した、『正しい訓練』が成長に向けたカギとなる」
新入社員のみならず心に刻みたい金言だ。
(ライター 石臥薫子)